1948年,小学校社会科学習指導要領補説
第一章,序説 第一節,現在の問題 社会科の学習指導要領を手がかりとして、全国の教師たちは社会科の教育を開始しました。全く新しい教科な ので、さすが、教師たちの努力はそれを乗り越えて、学校に生き生きとした新しい気分を生みだしています。 その問題や困難のもとになるものをだんだんつきつめていくと、それらの原因は、次のようないくつかの問題 がまだ正しく解決されていないからだと思います。 すなわちその問題は、 一、小学校の教科課程の中で、社会科はどのような位置を占めているか。 二、社会科の目標と地域の要求との関係はどうなっているか。 三、社会科の学習内容の選択およびその指導に対して、児童生活の研究はどのような意,味を持つか。 四、どのようにして作業単元を作り、どのように展開するのが適当であるか。 五、社会科の教育の効果を判定していくのにはどうすればよいか。 六、社会科を実施するのにどんな資料や設備を整えればよいか。 ……(中略:飯國)…… 第二節,小学校の教科課程と社会科 小学校の教科は学科分立の組織では十分にその教育の目的を達成することができないので、しだいに生活経 験の総合的な発展をめざす新しい教科課程にうつりかわろうとしています。従来の修身・地理・歴史にかわっ て、社会科が生まれてきたのも、その線にそってであります。このことがはっきりすれば、社会科と他教科と の関連も、社会科の本質も、正しくとらえることができるはずです。学習指導要領と多少重複しますが、いか に社会科の目標、内容、学習の系統および方法に分けて、そのことを考えてみましょう。 一、社会科の目標 社会科の主要目標を一言でいえば、できるだけ立派な公民的資質を発展させることであります。これをもう 少し具体的にいうと、児童たちが、(一)自分たちの住んでいる世界に正しく適応できるように、(二)その 世界の中で望ましい人間関係を実現していけるように、(三)自分たちの属する共同社会を進歩向上させ、文 化の発展に寄与することができるように、児童たちにその住んでいる世界を理解させることであります。そし て、そのような理解に達することは、結局社会的に目が開かれるということであるともいえましょう。 児童たちが社会的に目を開くためには、社会の根本的諸機能と、それらの機能が相互に関係しあって作って いる社会生活全体を、人間らしい生活をいとなみたいという人間の根本的欲求、すなわち人間性に関係させて 深く理解しなければなりません。なかでも、社会生活を成立させ発展させている重要な条件として、(一)人 と人との間の相互依存関係、(二)人間と自然環境との間の相互依存関係、(三)個人と社会制度や施設との 間の相互依存関係、を理解することが寛容であります。 しかし、りっぱな公民的資質ということは、その目が社会的に開かれているということ以上のものを含んで います。すなわちその他に、人々の幸福に対して積極的な情熱をもち、本質的な関心をもっていることが寛容 です。それは政治的・社会的・経済的その他あらゆる不正に対して積極的に反発する心です。人間性および民 主主義を信頼する心です。人類はいろいろな問題を賢明な協力によって解決していく能力があるのだというこ とを確信する心です。このような信念のみが公民的資質に推進力を与えるものです。 社会的に目が開かれていることは、民主社会を建設し維持するのに欠くことのできない条件です。しかし社 会的に目のあいていること、社会的な関心をもっていることは、さらに、よい共同生活をするのに不可欠なさ まざまの技能や週間や態度と結合していなければなりません。すなわちその時々の事態に応じて適切に処理す ること、建設的に協力すること、他人の権利を尊重すること、疑わしい意見や正しくない意見とたたかうこと など、総じて民主的社会の有為な公民として必要な数多くの特性を身につけていなくてはなりません。 社会科は右に述べたような公民的資質の発展を目標とするのでありますから、それが小学校教育の教科課程 の中で占める位置はおのずから明かであります。 学校教育法第十八条によれば、初等普通教育を児童に与えるためには、左の各号に上げる目標の達成に努め なければなりません。 一、学校内外の社会生活の経験に基づき、人間相互の関係について、正しい理解と協同,・自主および自立の精 神を養うこと。 二、郷土および国家の現状と伝統について、正しい理解をもつように導き、進んで国際,協調の精神を養うこと。 三、日常生活に必要な衣・食・住・産業等について、基礎的な理解と技能を養うこと。 四、日常生活に必要な国語を正しく理解し、使用する能力を養うこと。 五、日常生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する能力を養うこと。 六、日常生活における自然現象を科学的に観察し、処理する能力を養うこと。 七、健康・安全で幸福な生活のため必要な習慣を養い、心身の調和的な発達を図ること。 八、生活を明るく豊かにする音楽・美術・文芸等について、基礎的な理解と技能を養うこと。 これによりますと、小学校教育の目標は有為な社会形成者を作ること。すなわち社会の中での生活を、幸福 に、能率的にいとなむのに必要な諸種の理解・態度・能力を養うことにあるということができます。これと前 に述べた社会科の目標を比較してみますと、社会科が小学校の教科目表達成のために重要な位置を占め、そし てすべての教科の主要目標とかたくむすびついていることは明かです。 二、社会科の内容 社会科の内容としては、広く人類学・経済学・歴史学・地理学・政治学・社会学等の対象である各種の分野 が考えられます。もちろんそれは、たがいに関連しあってより広い領域の一部をなしているものとしてです。 それは、このような分野の理解が現代のわれわれの生活にあらわれている社会的な諸問題の解決に役立つから です。社会科の中には、あらゆる人間社会についての知識や思想も含まれているわけです。社会科は人類がど のようにして自然を利用して自然を利用して、人間としての基本的な欲求をみたしているかを問題にしており、 歴史的に発生してきた週間や制度を問題にしており、現在人類の直面している諸問題を問題にしているのです。