1996年7月19日 中央教育審議会 (大臣官房政策課)21世紀を展望した我が国の教育の在り方について
−子供に[生きる力]と[ゆとり]を−
中央教育審議会,第一次答申 目次,−子供に[生きる力]と[ゆとり]を− はじめに 第1部,今後における教育の在り方 (1)子供たちの生活と家庭や地域社会の現状 [1]子供たちの生活の現状 [2]家庭や地域社会の現状 (2)これからの社会の展望 (3)今後における教育の在り方の基本的な方向 (4)過度の受験競争の緩和 (5)いじめ・登校拒否の問題 [1]いじめ・登校拒否の問題の背景 [2]いじめ・登校拒否の問題の解決のための家庭・学校・地域社会の役割と連携 第2部,学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方 第1章,これからの学校教育の在り方 (1)これからの学校教育の目指す方向 [1]これからの学校 [2]教育内容の厳選と基礎・基本の徹底 [3]一人一人の個性を生かすための教育の改善 [4]豊かな人間性とたくましい体をはぐくむための教育の改善 [5]横断的・総合的な学習の推進 [6]教科の再編・統合を含めた将来の教科等の構成の在り方 (2)新しい学校教育の実現のための条件整備等 [1]教員配置の改善 [2]教員の資質・能力の向上 [3]学校外の社会人の活用 [4]学校施設など教育環境の整備 [5]関係機関との連携 [6]様々な専門家と教員等との連携 [7]幼児教育の充実 [8]障害等に配慮した教育の充実 第2章,これからの家庭教育の在り方 (1)これからの家庭教育の在り方 (2)家庭教育の条件整備と充実方策 [1]家庭教育の在り方と条件整備 [2]家庭教育の具体的な充実方策 第3章,これからの地域社会における教育の在り方 (1)これからの地域社会における教育の在り方 (2)地域社会における教育の条件整備と充実方策 [1]地域社会における教育の在り方と条件整備 ,[2]地域社会における教育の具体的な充実方策 [3]地域社会における教育を充実させるための体制の整備 第4章,学校・家庭・地域社会の連携 第5章,完全学校週5日制の実施について (1)今後における教育の在り方と学校週5日制の目指すもの (2)完全学校週5日制の実施に当たって特に留意すべき事項 [1]学校外活動の充実と家庭や地域社会の教育力の充実 [2]過度の受験競争の緩和と子供の[ゆとり]の確保 [3]完全学校週5日制の実施方法 第3部,国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方 第1章社会の変化に対応する教育の在り方 第2章国際化と教育 [1]国際化と教育 [2]国際理解教育の充実 [3]外国語教育の改善 [4]海外に在留している子供たち等の教育の改善・充実 第3章情報化と教育 [1]情報化と教育 [2]情報教育の体系的な実施 [3]情報機器、情報通信ネットワークの活用による学校教育の質的改善 [4]高度情報通信社会に対応する「新しい学校」の構築 [5]情報化の「影」の部分への対応 第4章科学技術の発展と教育 [1]科学技術の発展と教育 [2]科学的素養の育成に関する教育の改善 [3]地域社会における様々な学習機会の提供 第5章,環境問題と教育 [1]環境問題と教育 [2]環境教育の改善・充実 [3]地域社会における様々な学習機会の提供 今後の検討課題 [参考資料] 諮問文 文部大臣諮問理由説明 文部事務次官補足説明 第15期中央教育審議会審議経過(総会、第1小委員会、第2小委員会) 第15期中央教育審議会委員・専門委員名簿 答申の骨子 [関連資料] 中央教育審議会第一次答申に当たっての有馬会長談話 中央教育審議会第一次答申を受けての奥田文部大臣談話 21世紀を展望した我が国の教育の在り方について (中央教育審議会,第一次答申) −子供に[生きる力]と[ゆとり]を− はじめに 1,中央教育審議会は、平成7年4月、文部大臣から「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」諮 問を受けた。その際、主な検討事項として次の三つの事項が示された。 [1],今後における教育の在り方及び学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方 [2],一人一人の能力・適性に応じた教育と学校間の接続の改善 [3],国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方 本審議会は、総会における議論を経て、平成7年8月に第1小委員会及び第2小委員会を設置し、以後、両小 委員会を中心に審議を進めてきた。 第1小委員会は、[1],及び[2],について検討することを任務とし、まず、[1],について審議を進めてきた。ま た、第2小委員会は、[3],について検討することを任務とし、これまで、初等中等教育を中心に審議を進めて きた。そして、本審議会は、平成8年5月に行われた両小委員会からの報告を踏まえた総会での審議を経て、 平成8年6月18日、「審議のまとめ」を公表した。 「審議のまとめ」を公表するに至るまでの間、総会及び小委員会を通じ、関係団体や関係者からヒアリングを 行ったほか、平成7年9月から11月にかけて、「21世紀に向けた教育の在り方に関する提言」を公募する とともに、11月には公開の「一日中教審」を開催するなどして、できるだけ多くの意見に耳を傾けるように 努めてきた。また、「審議のまとめ」の公表後は、これに対する各方面からの意見を踏まえ、総会において更 に審議を深めてきた。 本審議会は、このような審議を経て、ここに第一次答申をとりまとめた。 今後、本審議会は、高等学校教育の改革・大学教育の改革、大学・高等学校における入学者選抜の改善、いわ ゆる中高一貫教育の導入や教育上の例外措置など、「一人一人の能力・適性に応じた教育と学校間の接続の改 善」を中心に審議を進めることとしている。 2,我々は、学校・家庭・地域社会を通じて、我々大人一人一人が子供たちをいかに健やかに育てていくかとい う視点に立つと同時に、子供の視点に立って審議を行い、今後における教育の在り方として、[ゆとり]の中 で、子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくことが基本であると考えた。そして、[生きる力]は、学校・ 家庭・地域社会が相互に連携しつつ、社会全体ではぐくんでいくものであり、その育成は、大人一人一人が、 社会のあらゆる場で取り組んでいくべき課題であると考えた。 この第一次答申は、まず、第1部において、子供たちの生活や家庭・地域社会の現状と、これからの社会の展 望を踏まえつつ、全体的に今後における教育の在り方について述べている。 次いで、第2部は、今後における教育の在り方を踏まえつつ、これからの学校・家庭・地域社会それぞれの教 育の在り方、学校・家庭・地域社会の連携の在り方について述べ、最後に、学校週5日制の今後の在り方につ いて述べている。 そして、第3部は、今後における教育の在り方を踏まえつつ、国際化、情報化、科学技術の発展、環境の問題 等の社会の変化に対応する教育の在り方について述べている。 第1部,今後における教育の在り方 今後、我が国の教育はいかに在るべきか、また、その際、学校・家庭・地域社会の役割と連携はいかに在るべ きかについて検討するには、今の子供たちの生活の現状や、それを取り巻く家庭や地域社会の現状はどうなっ ているか、そして、子供たちが成人するころの社会はどのようなものになり、そこではどのような教育が必要 になるであろうかが検討されなければならない。そこで、我々は、まず、このような点について検討を行った。 (1)子供たちの生活と家庭や地域社会の現状 戦後、我が国は新しい教育理念に基づく新しい教育制度を出発させた。その後、50年が経過し、今日に至っ ている。 この間の経済の成長、交通・情報通信システムの急速な整備など、様々な分野における進展は我が国社会を著 しく変貌させた。確かに人々の生活水準は向上し、生活は便利になったが、その反面、人々の生活は[ゆとり] を失い、慌ただしいものになってきたことも否めない。家庭もその有様を変貌させ、地域社会も地縁的な結び つきや連帯意識を弱めてしまった。 このような社会全体の大きな変化の中で、子供たちの教育環境も大きく変化した。経済水準の上昇、高い学歴 志向等に支えられて高等学校・大学への進学率は急激な上昇を見、教育は著しく普及した。また、食生活や生 活様式の変化などを背景に子供たちの体格は大いに向上した。しかし、子供たちの生活は大人社会と同様に慌 ただしいものになった。 このようにして、現在の子供たちの生活を見ていくと、過去の子供たちにはなかった積極面が見られる一方で、 様々な教育上の課題が生じてきている。また、子供たちを取り巻く家庭や地域社会についても様々な教育上の 課題を指摘することができる。 [1]子供たちの生活の現状 (ゆとりのない生活) まず、現在の子供たちは、物質的な豊かさや便利さの中で生活する一方で、学校での生活、塾や自宅での勉強 にかなりの時間をとられ、睡眠時間が必ずしも十分でないなど、[ゆとり]のない忙しい生活を送っている。 そのためか、かなりの子供たちが、休業土曜日の午前中を「ゆっくり休養」する時間に当てている。また、テ レビなどマスメディアとの接触にかなりの時間をとり、疑似体験や間接体験が多くなる一方で、生活体験・自 然体験が著しく不足し、家事の時間も極端に少ないという状況がうかがえる。 このような[ゆとり]のない忙しい生活の中にあって、平成4年及び6年のNHKの世論調査においても、 「夜、眠れない」、「疲れやすい」、「朝、食欲がない」、「何となく大声を出したい」、「何でもないのに イライラする」といったストレスを持っている子供もかなりいることが報告されている。 (社会性の不足や倫理観の問題) 次に、友人や兄弟姉妹について見てみると、友人、兄弟姉妹ともに、その数が減少する傾向が見られる。例え ば、厚生省の「児童環境調査」によると、小学校5年生から中学校3年生の「よく遊ぶ友人の数」は、昭和6 1年に「2〜3人」が27.2%、「6人以上」が32.4%だったのが、平成3年には、「2〜3人」は3 2.5%に増え、「6人以上」は26.7%に減少している。兄弟姉妹の数についても、国民生活白書による と、昭和37年に、「4人以上」が62.2%、「2人」が1.5%、「1人」が5.0%だったのが、平成 4年には、「4人以上」は5.1%に減少し、「2人」は57.9%、「1人」は9.0%に増加している。 また、友人は、同年齢の者の割合が大きくなってきている。友人との付き合い方について、平成4年のNHK 世論調査を見ると、「親友」との付き合い方であっても、「心の深いところは出さないで」と「ごく表面的に」 と答えた者の合計は、中学生で35.1%、高校生で29.3%に上り、「普通の友達」との場合は、中学生 で84.3%、高校生で90.2%の者がそう答えている。こうしたことを背景に、生活体験や社会体験の不 足もあって、子供たちの人間関係を作る力が弱いなど社会性の不足が危惧される。 民間の教育研究所の調査では、中学生の規範意識に関して、「放置してある他人の自転車に乗る」、「他人の 体育館ばきを無断で使用する」など、すべての調査項目について、「悪い」と思う割合が昭和58年の調査よ りも平成7年の調査の方が低下していることが示されており、子供たちの倫理観についての問題もうかがえる。 (自立の遅れ) また、日常生活や自分の将来について調べた調査では、子供の自立が遅くなっている傾向が見られる。例えば、 小学生(4年生から6年生)について、NHKの世論調査の昭和59年と平成6年を比べてみると、「自分の 身のまわりや部屋のかたづけをする」は、43.7%から34.4%へと、「将来、何になりたいかを決めて いる」は、39.6%から32.6%へとそれぞれ減少している。中学生・高校生についても、同世論調査の 昭和57年と平成4年を比べてみると、「将来、何になりたいかを決めている」は、中学生で40.2%から 35.9%へ、高校生で49.8%から42.7%へとやはり減っている。 (健康・体力の問題) 身体的な面については、身長・体重など体格面での着実な向上が見られるとともに、戦前には多かった結核な どの感染症なども著しく改善されている。また、歯磨きなどの基本的生活習慣の改善により、最近では、むし 歯も着実に減少している。しかし、肥満傾向を有する者の増加や視力の低下など新たな健康問題が生じており、 適切な生活行動についての知識や、それを実践する力が子供たちに不足しているという指摘もある。体力・運 動能力については、敏しょう性は向上する傾向が見られるものの、瞬発力、筋力、持久力、柔軟性などは全般 に低下傾向にある。これらは、日常生活において、体を使っての遊びなど基本的な運動の機会が著しく減少し ていることに起因すると考えられる。 (現代の子供の積極面) 一方、昭和63年の東京都の世論調査では、大人は、今日の青少年について、「人生を楽しく過ごすこと・遊 び心」、「センスの良さ・スマートさ」、「異なる文化を受け入れる頭のやわらかさ」、「自分の意見を率直 に述べること」、「国際性」、「感性の豊かさ」などの点について、自分の青少年期よりも優れていると考え ているという報告がなされており、平成6年のNHKの世論調査でも、かなりの親が自分の子供時代と比べて 今の子供は「流行に敏感である」、「メカに強い」と答えている。 また、平成3年度の文部省調査では、64.8%の子供が「日本と外国の関係や外国に関することがらに関心 がある」と答えているほか、国際交流に関して今後やってみたいこととして、相当数の子供が「外国に旅行し たい」(70.7%)、「外国人と友達になりたい」(49.8%)、「外国で仕事をしたい」(23.4%) と答えるなど、国際交流に積極的な面のあることが示されている。 さらに、今日の子供たちには、社会に対して積極的にかかわっていこうとする気持ちを強く持っている傾向も うかがわれる。例えば、昭和46年の総理府の調査では、20歳代の若者で「地域や社会のための活動や奉仕 活動をしてみたいと思う」と答えた者が27.5%であったのに対し、平成2年の総理府の調査によると、 「社会参加活動に参加してみたいと思う」と答えた者が39.4%に増加している。また、平成7年1月に起 こった阪神・淡路大震災の際にボランティア活動に参加した人の中では、10歳代から20歳代の若者が多く を占めるなど、社会参加や社会貢献に対する意欲は強いものがあると思われる。 (学校生活をめぐる状況) 次に、子供たちの学校生活をめぐる状況を見てみると、平成6年の文部省の調査によれば、学校の生活に「満 足している」、「まあ満足している」と答えている者が、小学生では91.2%、中学生では70.6%、高 校生では64.3%となっており、全体としては、学校生活を楽しいと考えている子供たちが多いものの、中 学校、高等学校と進むにつれて学校生活への満足度が減少してくるという傾向がうかがえる。 小・中学生の通塾率は、次第に増加し、平成5年においては、小学生で23.6%、中学生で59.5%が通 っている。塾に通う理由は様々であるが、過度の塾通いは子供らしい生活体験・自然体験や遊びの機会を失わ せる等見過ごすことのできない問題を持っている。その要因とされる過熱化した受験競争については、本来の 学ぶ目的を見失わせたり、子供の発達や人間形成に悪影響を与えたりすることが懸念される。特に、今日、そ の低年齢化が進んでいる状況は教育上の大きな課題と言わなければならない。 いじめや登校拒否の問題も極めて憂慮すべき状況にあると言わなければならない。平成6年度において、いじ めの発生件数は、小学校2万5295件、中学校2万6828件に上っている。また、登校拒否の子供の数は 年々増加し、30日以上欠席した登校拒否の子供の数は、平成6年度において小学生1万5786人、中学生 6万1663人となっている。特にいじめについては、これを苦にしたと考えられる自殺事件が相次いで発生 しており、憂慮に堪えない。 [2]家庭や地域社会の現状 次に子供たちを取り巻く家庭や地域社会の現状はどうであろうか。 (a)家庭の現状 まず、家庭についてであるが、核家族化や少子化の進行、父親の単身赴任や仕事中心のライフ・スタイルに伴 う家庭での存在感の希薄化、女性の社会進出にもかかわらず遅れている家庭と職業生活を両立する条件の整備、 家庭教育に対する親の自覚の不足、親の過保護や放任などから、その教育力は低下する傾向にあると考えられ る。 平成5年の総理府の世論調査では、家庭の教育力が低下していると思う点としては、「基本的生活習慣が身に ついていないこと」が、最も多くの者から指摘されており、家庭の教育力が低下していると思う理由としては、 「過保護・甘やかせ過ぎな親の増加」や「しつけや教育に無関心な親の増加」が、多くの者から指摘されてい る。また、親が子供と一緒に過ごす時間については、諸外国に比べて、特に父親が少ない。 しかし、平成5年の別の総理府の世論調査によると、「10年前に比べて、家庭を重視する男性が増えている」 と感じている人の割合は72.1%に達し、また、20歳代から30歳代の人々の80%以上は、「今後、男 性が子育てや教育などに参加して家庭生活を充実し、家庭と仕事の両立を図るためには、企業や仕事中心のラ イフ・スタイルを変える方がよい」と考えている。このように、国民の多くが仕事中心から家庭や子育てを大 切にする生活へと意識が変わってきていることもうかがえる。 (b)地域社会の現状 次に、地域社会については、都市化の進行、過疎化の進行や地域社会の連帯感の希薄化などから、地縁的な地 域社会の教育力は低下する傾向にあると考えられる。例えば、平成5年の総理府の世論調査を見ると、自分と 地域の子供とのかかわりについて、「道で会ったとき声をかけた」36.3%、「危険なことをしていたので、 注意した」35.8%、「悪いことをしたので注意したり、しかったりした」28.3%、などの一方、「特 にない」は29.9%となっており、約3割の人が地域の子供とのかかわりを全く持っていないと答えている。 しかしながら、平成6年の文部省の調査において、子供の健全な成長のために地域の大人たちが積極的に子供 たちにかかわっていくべきと思うかどうかについて、子供たちの保護者に尋ねたところ、「積極的にかかわっ ていくべきだと思う」、「どちらかといえばかかわった方がよいと思う」と答えた者の合計は89.3%に上 り、保護者の意識の上では、地域社会が子供たちの成長にかかわっていくべきであると考えていることが分か る。 また、平成2年の総理府の世論調査は、地域活動、子供会やスポーツなどの指導、社会福祉活動等といった、 いわゆる社会参加活動については、「参加している、あるいは参加したことがある」と答えた者が増えている ことを示しており、さらに、平成5年の総理府の世論調査では、特にボランティア活動に対して、地域社会の 人々の参加意欲が高まっていることが示されている。 以上、家庭と地域社会の現状について見てきた。 こうした家庭や地域社会に見られる教育力の低下は、大きくは、戦後の経済成長の過程で、社会やライフ・ス タイルの変容とともに生じてきたものと言わなければならない。例えば、家庭については、これまで企業中心 の行動様式が広く作り出されてきたこと、民間企業などから提供される多彩で便利なサービスを享受すること によって家庭の機能を代替させえたことなどが大いにかかわっていると言えるし、地域社会については、都市 化や情報化の進展によって、かつては息苦しいとまで言われた地域社会の地縁的な結びつきが弛緩していった ことなどの事情が大きくかかわっていると言えよう。 このように、家庭や地域社会の教育力の低下の問題は、日本人のライフ・スタイルや現代社会の構造そのもの にかかわる問題であり、その新たな構築を図ることは容易ではないであろう。 しかし、今、人々は、家庭や地域社会の本来の機能を外部にゆだねたり、喪失させてしまうことによって、一 見快適な生活を送ることができるようになったことが本当に良いことだったのか、また、それで果たして本当 に幸福になったのか、ということを問うようになってきた。このことは、単に子供たちの教育の問題だけでな く、我が国の国民生活の様々な問題に取り組む上でも重要な課題である。我々は、今こそこの問題を社会全体 で真剣に考え直してみなければならないときだと考える。 (2)これからの社会の展望 戦後、我が国は、廃墟の中から欧米諸国に追い付き追い越すべく、努力してきた。その結果、驚異的な経済成 長を遂げ、世界経済の中で大きな地位を占めるとともに、所得水準の面でも世界のトップレベルに達し、今や 国民一人一人が豊かさを謳歌するに至っている。 しかし、その一方で様々な問題が生じてきている。過疎化や都市化が進行し、企業中心の行動様式が社会に定 着する中で、地域社会の連帯感は次第に希薄となってきた。また、核家族化が進み、家族の有り様も大きく変 化した。経済成長を追い求め続けてきた結果、いつも何かに追い立てられているような余裕のない生活を送り、 また、豊かさを実現したといっても、物質的な豊かさが中心で、あふれるモノに取り囲まれながら、何かしら 満たされぬ思いが募る毎日を送っている。このような中で、国民は次第に[ゆとり]や心の豊かさなど多様な 価値や自己実現を求めるようになってきている。今日、我々は、これまでの過去を立ち止まって振り返りなが ら、経済成長の過程で失ったものは何か、今後、我々が本当に求めるものは何であるかを考えてみなければな らない。 また、追い付き追い越せ型の経済成長を遂げてきた我が国は、欧米先進諸国の開発した科学技術を上手に活用 するというこれまでの手法はもはや許されず、自ら科学技術を創造し、新しいフロンティアを開拓していくこ とが求められている。 加えて、経済大国の地位も、東アジアを中心とした海外諸国の競争力の向上により揺り動かされ始めており、 我が国は、単に良質の物を製造するだけでなく、より付加価値の高い製品やサービスを提供する高次な経済社 会へと経済構造の改革をしていく必要が生じている。このような経済構造の変革の中で、経済の高度成長に深 くかかわった終身雇用や年功序列という日本型雇用システムも揺らいできている。 さらに、我が国の社会は、今後、様々な面で変化が急速に進むと考えられる。社会の変化の方向については、 それらの変化に対応する教育の在り方を提言する第3部で詳しく述べることとしているが、ここでは基本的な 展望を述べておくこととする。 一つは、国際化の進展である。冷戦の終焉や交通手段の発達、情報化の進展を背景に、経済、社会、さらには、 文化の面で交流が一層進み、国際的な相互依存関係がますます深まっていく。一方、様々な面で、国際的な摩 擦や競争も生じてくると考えられる。 また、情報化の進展は、さらに新しい段階に入っていくと考えられる。マルチメディアという言葉に集約され るように、世界的な規模の情報通信ネットワークを通じて、不特定多数のものが、双方向に文字・音声・画像 等の情報を融合して交換することが可能となりつつある。このような高度情報通信社会の実現は、地球規模で 今後の社会や経済の姿を大きく変えていくものと考えられる。 さらに、科学技術の発展も著しいものになると考えられる。今後、科学技術は、分子レベルでの生命の研究、 原子レベルでの物質の研究、宇宙の成り立ちの研究など一層の発展が見込まれる。これらの発展は、人類にと って豊かな未来を築く原動力になると考えられるが、とりわけ、人間の知的創造力が最大の資源である我が国 にとって、諸外国以上に科学技術の発展は重要である。しかしながら、一方、科学技術が著しく高度化・細分 化・専門化する中で、国民にとって科学技術は分かりにくいものとなり、不安感がさらに高まっていくことも 懸念される。 また、今日、地球環境問題、エネルギー問題など人類の生存基盤を脅かす問題も生じてきている。これらは、 大量生産・大量消費・大量廃棄型の現代文明の在り方そのものが問われる問題であるが、今後、地球規模でこ れらの問題に取り組んでいく必要性はさらに高まり、この面で、我が国の貢献がさらに強く求められるように なっていくことが予測されるところである。 さらに、我が国では、今後、高齢化や少子化が急速に進展し、かつて経験したことのないような少子・高齢化 社会を迎えることが確実と見られている。また、男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社 会のあらゆる分野に参画する機会が確保される「男女共同参画社会」づくりも重要な課題となっている。 これからの社会をどのように展望するかについては、様々な変化や要素を考える必要があり、一概に言い表す ことは難しいが、いずれにせよ、変化の激しい、先行き不透明な、厳しい時代と考えておかなければならない であろう。 (3)今後における教育の在り方の基本的な方向 我々は、以上のような認識の下に、今後の教育の在り方について種々検討を行った。 教育においては、どんなに社会が変化しようとも、「時代を超えて変わらない価値のあるもの」(不易)があ る。 豊かな人間性、正義感や公正さを重んじる心、自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる心、人権を尊 重する心、自然を愛する心など、こうしたものを子供たちに培うことは、いつの時代、どこの国の教育におい ても大切にされなければならないことである。 また、それぞれの国の教育において、子供たちにその国の言語、その国の歴史や伝統、文化などを学ばせ、こ れらを大切にする心をはぐくむことも、また時代を超えて大切にされなければならない。我が国においては、 次代を担う子供たちに、美しい日本語をしっかりと身に付けさせること、我が国が形成されてきた歴史、我が 国の先達が残してくれた芸術、文学、民話、伝承などを学ぶこと、そして、これらを大切にする心を培うとと もに、現代に生かしていくことができるようにすることも、我々に課された重要な課題である。 我々はこれからの教育において、子供たち一人一人が、伸び伸びと自らの個性を存分に発揮しながら、こうし た「時代を超えて変わらない価値のあるもの」をしっかりと身に付けていってほしいと考える。 しかし、また、教育は、同時に社会の変化に無関心であってはならない。「時代の変化とともに変えていく必 要があるもの」(流行)に柔軟に対応していくこともまた、教育に課せられた課題である。 特に、(2)で述べたように、21世紀に向けて、急激に変化していくと考えられる社会の中にあって、これから の社会の変化を展望しつつ、教育について絶えずその在り方を見直し、改めるべきは勇気を持って速やかに改 めていくこと、とりわけ、人々の生活全般に大きな影響を与えるとともに、今後も一層進展すると予測される 国際化や情報化などの社会の変化に教育が的確かつ迅速に対応していくことは、極めて重要な課題と言わなけ ればならない。 このように、我々は、教育における「不易」と「流行」を十分に見極めつつ、子供たちの教育を進めていく必 要があると考えるが、このことは、これからの時代を拓いていく人材の育成という視点から重要だというだけ でなく、子供たちが、それぞれ将来、自己実現を図りながら、変化の激しいこれからの社会を生きていくため に必要な資質や能力を身に付けていくという視点からも重要だと考える。 また、今日の変化の激しい社会にあって、いわゆる知識の陳腐化が早まり、学校時代に獲得した知識を大事に 保持していれば済むということはもはや許されず、不断にリフレッシュすることが求められるようになってい る。生涯学習時代の到来が叫ばれるようになったゆえんである。加えて、将来予測がなかなか明確につかない、 先行き不透明な社会にあって、その時々の状況を踏まえつつ、考えたり、判断する力が一層重要となっている。 さらに、マルチメディアなど情報化が進展する中で、知識・情報にアクセスすることが容易となり、入手した 知識・情報を使ってもっと価値ある新しいものを生み出す創造性が強く求められるようになっている。 このように考えるとき、我々はこれからの子供たちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課 題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、ま た、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考え た。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は、こうした資質や能力 を、変化の激しいこれからの社会を[生きる力]と称することとし、これらをバランスよくはぐくんでいくこ とが重要であると考えた。 [生きる力]は、全人的な力であり、幅広く様々な観点から敷衍することができる。 まず、[生きる力]は、これからの変化の激しい社会において、いかなる場面でも他人と協調しつつ自律的に 社会生活を送っていくために必要となる、人間としての実践的な力である。それは、紙の上だけの知識でなく、 生きていくための「知恵」とも言うべきものであり、我々の文化や社会についての知識を基礎にしつつ、社会 生活において実際に生かされるものでなければならない。 [生きる力]は、単に過去の知識を記憶しているということではなく、初めて遭遇するような場面でも、自分 で課題を見つけ、自ら考え、自ら問題を解決していく資質や能力である。これからの情報化の進展に伴ってま すます必要になる、あふれる情報の中から、自分に本当に必要な情報を選択し、主体的に自らの考えを築き上 げていく力などは、この[生きる力]の重要な要素である。 また、[生きる力]は、理性的な判断力や合理的な精神だけでなく、美しいものや自然に感動する心といった 柔らかな感性を含むものである。さらに、よい行いに感銘し、間違った行いを憎むといった正義感や公正さを 重んじる心、生命を大切にし、人権を尊重する心などの基本的な倫理観や、他人を思いやる心や優しさ、相手 の立場になって考えたり、共感することのできる温かい心、ボランティアなど社会貢献の精神も、[生きる力] を形作る大切な柱である。 そして、健康や体力は、こうした資質や能力などを支える基盤として不可欠である。 このような[生きる力]を育てていくことが、これからの教育の在り方の基本的な方向とならなければならな い。[生きる力]をはぐくむということは、社会の変化に適切に対応することが求められるとともに、自己実 現のための学習ニーズが増大していく、いわゆる生涯学習社会において、特に重要な課題であるということが できよう。 また、教育は、子供たちの「自分さがしの旅」を扶ける営みとも言える。教育において一人一人の個性をかけ がえのないものとして尊重し、その伸長を図ることの重要性はこれまでも強調されてきたことであるが、今後、 [生きる力]をはぐくんでいくためにも、こうした個性尊重の考え方は、一層推し進めていかなければならな い。そして、その子ならではの個性的な資質を見いだし、創造性等を積極的に伸ばしていく必要がある。こう した個性尊重の考え方に内在する自立心、自己抑制力、自己責任や自助の精神、さらには、他者との共生、異 質なものへの寛容、社会との調和といった理念は、一層重視されなければならない。 今後、国際化がますます進展し、国際的な相互依存関係が一層深まっていく中で、子供たちにしっかりと[生 きる力]をはぐくむためには、世界から信頼される、「国際社会に生きる日本人」を育てるということや、過 去から連綿として受け継がれてきた我が国の文化や伝統を尊重する態度を育成していくことが、これまでにも 増して重要になってくると考えられる。 我々は、[生きる力]をこのようなものとして考えたところである。そして、[生きる力]をはぐくむに当た っては、特に次のような視点が重要と考える。 (a)学校・家庭・地域社会の連携と家庭や地域社会における教育の充実 まず第一は、学校・家庭・地域社会での教育が十分に連携し、相互補完しつつ、一体となって営まれることが 重要だということである。教育は、言うまでもなく、単に学校だけで行われるものではない。家庭や地域社会 が、教育の場として十分な機能を発揮することなしに、子供の健やかな成長はあり得ない。[生きる力]は、 学校において組織的、計画的に学習しつつ、家庭や地域社会において、親子の触れ合い、友達との遊び、地域 の人々との交流などの様々な活動を通じて根づいていくものであり、学校・家庭・地域社会の連携とこれらに おける教育がバランスよく行われる中で豊かに育っていくものである。特に、[生きる力]の重要な柱が豊か な人間性をはぐくむことであることを考えると、現在、ややもすると学校教育に偏りがちと言われ、家庭や地 域社会の教育力の低下が指摘されている我が国において、家庭や地域社会での教育の充実を図るとともに、社 会の幅広い教育機能を活性化していくことは、喫緊の課題となっていると言わなければならない。 人々が物の豊かさから心の豊かさへと大きく志向を移し、日本型雇用システムが揺らいでいる中で、今、人々 は家庭や地域社会へと目を向け始めている。その意味で、今こそ家庭や地域社会での教育の在り方を見直し、 その充実を図っていく必要があると考える。 また、このように、子供たちは社会全体ではぐくまれていくものであることを再確認し、子供たちの健やかな 成長は、大人一人一人の責任であり、大人一人一人が考え、社会のあらゆる場で取り組んでいく必要がある問 題であること、また、大人の社会の在り方そのものが強く問われる問題であることを改めて強調しておきたい。 (b)子供たちの生活体験・自然体験等の機会の増加 次に、子供たちに[生きる力]をはぐくむためには、自然や社会の現実に触れる実際の体験が必要であるとい うことである。子供たちは、具体的な体験や事物とのかかわりをよりどころとして、感動したり、驚いたりし ながら、「なぜ、どうして」と考えを深める中で、実際の生活や社会、自然の在り方を学んでいく。そして、 そこで得た知識や考え方を基に、実生活の様々な課題に取り組むことを通じて、自らを高め、よりよい生活を 創り出していくことができるのである。このように、体験は、子供たちの成長の糧であり、[生きる力]をは ぐくむ基盤となっているのである。 しかしながら、(1)で見たように、今日、子供たちは、直接体験が不足しているのが現状であり、子供たちに生 活体験や自然体験などの体験活動の機会を豊かにすることは極めて重要な課題となっていると言わなければな らない。こうした体験活動は、学校教育においても重視していくことはもちろんであるが、家庭や地域社会で の活動を通じてなされることが本来自然の姿であり、かつ効果的であることから、これらの場での体験活動の 機会を拡充していくことが切に望まれる。 (c)生きる力の育成を重視した学校教育の展開 さらに、これからの学校教育においては、[生きる力]の育成を重視した教育を展開していく必要があるとい うことである。組織的・計画的に教育を行う学校がどのような視点を重視して教育を行うかは極めて重要であ り、このことなしに一人一人の子供たちにしっかりと[生きる力]をはぐくむということの実現は期し得ない。 このような視点に立ったこれからの学校教育の在り方については、第2部第1章で詳しく述べることとしたい。 (d)子供と社会全体の[ゆとり]の確保 今後の教育の在り方について、これまで述べてきたように、子供たち一人一人に[生きる力]をはぐくんでい くことが大切であるとした場合、学校・家庭・地域社会は、具体的にどうあるべきであり、どう変わらなけれ ばならないのか。それぞれについての具体的な提言は、第2部以下に述べるが、我々は、[生きる力]をはぐ くんでいくために、これらに共通のものとして、子供たちにも、学校にも、家庭や地域社会を含めた社会全体 にも[ゆとり]が重要であると考える。今、子供たちは多忙な生活を送っている。そうした中で[生きる力] を培うことは困難である。子供たちに[ゆとり]を持たせることによって、はじめて子供たちは、自分を見つ め、自分で考え、また、家庭や地域社会で様々な生活体験や社会体験を豊富に積み重ねることが可能となるの である。そのためには、子供たちに家庭や地域社会で過ごす時間、すなわち、子供たちが主体的、自発的に使 える時間をできるだけ多く確保することが必要である。そうした[ゆとり]の中で子供たちは、心の[ゆとり] を持つことができるようになるのである。 また、子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくためには、子供たちに[ゆとり]を持たせるだけでなく、社 会全体が時間的にも精神的にも[ゆとり]を持つことが必要である。社会全体が[ゆとり]を持つことにより、 はじめて、学校でも家庭や地域社会でも、教員や親や地域の大人たちが[ゆとり]を持って子供たちと過ごし、 子供たちの成長を見守り、子供たち一人一人と接することが可能となる。こうした社会全体の[ゆとり]の中 で、子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくことができるのである。 ここで[ゆとり]と言うとき、もちろん時間的な[ゆとり]を確保することも重要であるが、心の[ゆとり] や考える[ゆとり]を確保することがさらに重要である。こうした心の[ゆとり]を社会全体が持つためには、 実は我が国社会全体の意識を改革していくということが必要となってくる。なぜなら、我々が心の[ゆとり] を持つことを妨げているものとして、例えば、他人がしているから自分もするといった横並び的な意識があっ たり、高等学校や大学で学ぶのは、ある一定の年齢層でなければならないというような過度に年齢を意識した 「年齢主義」的な価値観があるのではなかろうか。こうした意味で、我々は、自分の生き方を自ら主体的に決 めていくという価値観に立って、真の意味で個を確立していくことが必要だと考えるのである。 (4)過度の受験競争の緩和 子供たちに[ゆとり]を確保し、[生きる力]をはぐくんでいくためには、子供たちがそのような生き方をし 得る環境を整えることが必要である。そのためには、本人の努力、家庭教育の在り方、地域社会の環境整備な ど課題はいろいろあるが、我々は、特に重要な問題として過度の受験競争の緩和があると考えた。 この問題は、いわゆる学(校)歴偏重社会の問題とも関連し、解決策を見出すことの難しい問題である。しかし、 幾ら[ゆとり]の確保や[生きる力]の重要性を訴えても、そのような生き方を採ることが難しい事情がある ならば、正にそれは画に描いた餅と言わざるを得ない。 過度の受験競争は少子化が進む中で、緩和しつつあるという見方もあるものの、塾通いの増加や受験競争の低 年齢化に象徴されるように、大学・高等学校をめぐる受験競争は、多くの子供や親たちを巻き込みつつ、一部 の小学生へも波及し、かえって厳しくなっているのが現状と考える。過度の受験競争は、子供たちの生活を多 忙なものとし、心の[ゆとり]を奪う、大きな要因となっている。子供たちは、過度の受験勉強に神経をすり 減らされ、青少年期にこそ経験することが望まれる様々な生活体験、社会体験、自然体験の機会を十分に持つ ことができず、精神的に豊かな生活を行うことが困難となっている現状がある。小学生の子供たちなどが、夜 遅くまで塾に通うといった事態は、子供の人間形成にとって決して望ましいことではない。 また、高等学校や大学を目指した過度の受験競争は、高等学校以下の学校段階における教育や学習の在り方を、 受験のための知識を詰め込むことに偏らせる傾向を招いている。こうした教育の在り方は、子供たちに[生き る力]をはぐくんでいく上で、大きな問題だと言わなければならない。 もちろん、これまでもこの問題について、国、都道府県、学校は手をこまねいていたわけではない。それぞれ の立場において、種々の努力がなされてきた。 例えば、選抜方法の多様化、評価尺度の多元化という基本的観点に立って、大学における入学者選抜について は、面接、小論文、実技検査などの実施、推薦入学の改善、受験機会の複数化、職業教育を主に学習した生徒 を対象とする選抜方法の導入、大学入試センター試験の活用、編入学の推進、大学情報の提供などの改善が進 められ、また、高等学校における入学者選抜については、調査書の活用と充実、推薦入学の活用、受験機会の 複数化、面接の活用、偏差値や業者テストに依存しない進路指導などの改善が進められてきた。 さらに、高等学校や大学がそれぞれの教育理念や目標に沿って特色ある教育を展開していくことを基本に据え て、高等学校教育の多様化などの高校改革や個性化・多様化を理念とするカリキュラム改革など大学改革の取 組も推進されてきた。 また、企業・官公庁における採用や昇進の在り方が学(校)歴偏重社会の一つの大きな要因となり、過度の受験 競争を助長してきた面があるが、現在、経済構造が大きく変化する中で、企業において、採用方法や雇用慣行 を変革しようという動きが現れており、官公庁においても努力を始めている。こうした企業等の変革の動きは、 今後さらに加速されるのではないかと考えられる。 我々としても、こうした大学・高等学校における入学者選抜の改善、大学改革・高校改革の取組を評価しつつ、 今後一層改善が進められることを強く望みたい。また、企業・官公庁において、学校名にこだわらない採用な ど人物・能力本位の採用や、形式的な学(校)歴にこだわらない能力主義に基づく昇進などについてさらに積極 的な取組を望みたい。 このような現実の社会の動きを踏まえ、親の側においても、子供の将来にとって何が最も重要であり、そのた めにどのような教育が必要なのかについて、一人一人が真剣に考えることを求めたい。 また、この問題は、第14期中央教育審議会や大学審議会においても取り上げられてきたところであるが、過 度の受験競争の現状は、我々が提言する[生きる力]を目指す教育の実現に深くかかわるものであることから、 さらにこの問題を今期中央教育審議会の検討事項の一つである学校間の接続の改善の審議とも関連させて、引 き続き検討したいと考えている。その際、企業、官公庁における採用や昇進の問題、形式的な学(校)歴を重 視するいわゆる学(校)歴偏重社会の問題等も併せて検討を行い、中央教育審議会としての提言を行いたい。 (5)いじめ・登校拒否の問題 [1]いじめ・登校拒否の問題の背景 今日、最も解決に向けた取組が求められている教育上の課題として、過度の受験競争の問題と並んで、いじめ ・登校拒否の問題がある。 現在、憂慮すべき状況にあるいじめや登校拒否の問題の背景については、家庭・学校・地域社会のそれぞれの 要因が複雑に絡み合っていると考えられるが、深く現代社会の在り方そのものともかかわっており、この問題 は、我々の社会全体に投げかけられた大きな課題と言っても、過言ではない。 現代の日本社会は、物質的には豊かになったものの、人間関係が希薄化する傾向にあるという問題、家庭や地 域社会における教育力が低下しているという問題、学校が子供たちの多様な実態に十分対応できていないとい う問題など、様々な問題を抱えている。そうした中で、子供たちについては、生活体験・社会体験・自然体験、 異年齢の者との交流、社会性が不足しているのではないか、他人への思いやり、生命や人権の尊重、正義感や 遵法精神等の基本的な倫理観が十分養われていないのではないか、自己抑制力、自立心等の生活態度にかかわ るしつけが十分なされていないのではないか、ストレスを抱えているのではないか、など様々な問題が懸念さ れており、これらがいじめ・登校拒否の問題の背景として浮かび上がってくる。 いじめ・登校拒否の問題の背景には、このような様々な要因が考えられ、また個々のケースによりまちまちで あるが、一つの見方として、我々の社会が「同質にとらわれる社会」という問題点を持っていることから来て いるという指摘もなされている。個性を尊重し、お互いの差異を認め合うことの大切さは、これまでの我々の 社会では十分に顧みられてこなかった。 我々も、この「同質にとらわれる社会」の影響は広く各方面に及んでおり、いじめ・登校拒否の問題ともかか わっていると考えるのである。 例えば、子供たちの間に、仲間と群れていないと不安になる心情や、仲間と同じであることが、いじめを受け ないための防御行動だという考えが見られる。進んで仲間になっているのではなく、いじめを受けないためと いう消極的な動機から行動を共にしている事例も報告されている。こうしたことは自分の個性を大切にし、自 我を確立する上でも、子供たちの豊かな情操を培う上でも影を落としていると言わなければならない。また、 登校拒否の子供への指導に当たって、元の仲間や生活に戻ることのみにこだわるのでなく、子供が登校拒否を 克服する過程でどのように個性を伸ばし、成長していくかという視点を大切にして、ゆっくり時間をかけて取 り組むことも大切なことである。 このような意味から、我々は、いじめ・登校拒否の問題の解決のためには、同質志向を排除して、個を大切に し、個性を尊重する態度やその基礎となる新しい価値観を、社会全体が一体となって育てることも重要である と考える。 [2]いじめ・登校拒否の問題の解決のための家庭・学校・地域社会の役割と連携 我々は、いじめ・登校拒否の問題の背景について、[1]で述べたような認識に立つものであり、基本的には、 [ゆとり]を確保する中で、子供たちに[生きる力]を育成し、家庭・学校・地域社会における教育をバラン スよく行っていくことがこれらの問題の解決につながると考える。こうした観点に立った教育の在り方につい て、様々な角度から第2部において述べていくこととしているが、特に重要と考えていることを以下に述べた い。そして、これらの取組に当たっては、家庭・学校・地域社会が緊密に連携するとともに、大人一人一人が 責任を自覚し、それぞれの立場から積極的に参加・協力を行うことが不可欠であるということを強調しておき たい。 第一に、家庭・地域社会における取組の大切さについてである。 家庭については、親子の温かい人間関係を通じて善悪の判断などの基本的な倫理観を養い、生活態度のしつけ を行うなどの役割を一義的に担っているのは家庭であるとの自覚を新たにし、家庭の教育力を高めるため、意 識の向上を求める手だてが考えられなければならない。いじめ・登校拒否の問題にかかわって、家庭の在り方 が子供の生活態度や情緒面に影響を及ぼしているとの指摘があることにも耳を傾ける必要がある。 地域社会における取組については、全ての大人たちが、いじめなどの問題行動を見かけたときには、見て見ぬ 振りをするのではなく、よその子供でも注意するなど、地域で子供を育てるという意識を強めることが望まれ る。学校とともに、PTAや地域の青少年団体、スポーツ団体などの関係団体、児童福祉や人権擁護、警察な どの関係機関が幅広く協力しながら、地域ぐるみの取組を展開する必要がある。 また、マスメディアにあっては、その影響力の大きさを十分自覚して、いじめの問題の解決に向けて、啓発を 行うなどできる限りの協力をお願いしたい。 第二に、いじめや登校拒否の問題は、学校にとっては、その在り方そのものが問われている問題でもあること を指摘しておきたい。いじめ・登校拒否の問題の背景には複雑な要因があるが、第2部第1章でも述べるよう に、学校が、子供たち一人一人を大切にし、子供たちが自分のよさを見いだし、それを伸ばし、存在感や自己 実現の喜びを実感できるような学校であることが重要である。例えば、教員は、深い児童生徒理解に立った全 人格的な接し方を心がけるとともに、一人一人の個性を生かした分かりやすく楽しい授業を展開するよう努め る必要がある。教師の言葉一つで、子供たちが元気になったり、元気を失ったりすることを重く受け止めて、 子供たちに受容的な態度で接していくことも大切である。また、教育活動全体を通して、生命や人権を尊重す る心をはぐくむとともに、お互いの個性を尊重し、差異を認め合う態度を育成することや、円滑な人間関係の 形成、個々人の個性や価値を尊重する態度、社会性の涵養などには特に心を砕いてほしい。また、子供の心身 の問題に関する相談や、心身の健康に関する指導を行うことも極めて重要である。教員は、こうした要請にこ たえていくためにも、研修に努め、資質・能力の向上を図っていくことが一層強く求められる。 第三に、現在、各学校、各教育委員会が、いじめ・登校拒否の問題を最重要課題として積極的に取り組んでい ることは認めつつ、改めてその取組の一層の充実を求めたい。どの学校にもいじめはあり得る、登校拒否はど の子供にも起こり得るとの認識の下、子供の発する危険信号を鋭敏にとらえたり、どんなささいなことでも必 ず親身に相談に応じるなどして、その発見に努めなければならない。いじめ・登校拒否の問題が起こった場合 には、学級担任一人が思い悩み、抱え込むのではなく、校長をはじめとして全教職員が手を携え、校長のリー ダーシップの下、学校を挙げて一丸となってその解決に至るまで全力で取り組む必要がある。特に、いじめに ついては、弱い者をいじめることは絶対に許されない、社会で許されない行為は子供でも許されない、また、 いじめを傍観する行為も同様に許されないという毅然とした姿勢を学校のすみずみまで行きわたらせることが 重要である。さらに、いじめをその時の指導によって解決したと即断することなく、その子供が卒業するまで 継続して注意を払い、指導することも必要である。養護教諭は、いじめの兆候に気づいたり、いわゆる保健室 登校の子供の指導に当たるなど、その役割は大きい。他の教職員との連携を一層緊密にして、積極的に取り組 んでほしい。また、これらの問題の解決のためには、家庭との協力が不可欠である。特にいじめについては、 いじめている子供、いじめられている子供双方の家庭に協力を求めることはもとより、PTAとの緊密な連携 を図ることが重要である。こうした取組に当たって、学校は適切な体制を整えるなど連携の効果をあげていく ことも必要である。 なお、学校の中には、いじめや登校拒否の問題を外部に隠そうとしたり、他の教職員、家庭、さらには専門家 や関係機関との連携に躊躇するような傾向もいまだに見られる。改めて、開かれた姿勢での学校運営の重要性 を確認しておきたい。 第四に、教育相談体制を充実する上で、教員以外の専門家の協力を求めることは不可欠と考える。現在拡充が 図られているスクールカウンセラーや都道府県・市町村の教育相談員をはじめ、児童相談所など各種の専門機 関との連携を図り、開かれた姿勢で協力を求めるという学校運営が大切である。特に、スクールカウンセラー については、子供に対する相談はもとより、保護者の相談や、教員への助言、学校の教育相談体制に対する助 言などにおいて、これまでおおむね高い評価を得ており、そのさらなる拡充を図っていくべきである。また、 学校外の相談機関については、相談窓口の開設時間の工夫など、学校や子供たちが相談しやすい体制の整備を 図っていくことが望まれる。 第五に、いじめ・登校拒否の問題の解決に当たっては、学校が全力を挙げて取り組むことはもとより重要であ るが、学校のみで解決することに固執しない開かれた学校運営も大切だということである。いじめに関しては、 現行の義務教育制度を前提としながら、一定の要件の下で、子供の「転学」を一層弾力的に行うとともに、緊 急避難として学校を欠席している子供に関しては、学校は、家庭と十分連携を図り、子供への指導の機会を確 保するなど万全の措置を講じる必要がある。また、いじめている子供に対しては、根気強い指導にもかかわら ず、なお、いじめが一定の限度を超える場合などには、出席停止の措置を講じたり、警察の協力を求めるなど の対応も必要である。 登校拒否については、学校外での指導の場として、既に一定の要件の下に適応指導教室や民間の相談・指導施 設において指導・援助を受けた場合、指導要録上出席扱いできる措置も講じられている。適応指導教室等にお ける指導は、学校生活への復帰に向けての助走期間であると同時に、子供の個性を[ゆとり]をもってさらに 開花させる期間でもある。そうした視点に立って、適応指導教室の一層積極的な活用を図るとともに、民間の 相談・指導施設と学校や教育委員会との連携を図っていくことが重要である。また、青少年教育施設などにお けるプログラムを活用したり、登校拒否の子供のためのバイパスとして、就学義務猶予免除者を対象とした 「中学校卒業程度認定試験」などを有効に活用したりすることも検討されてよいと考える。 第六に、子供の生活において、学校が時間的にも精神的にも、家庭や地域社会に比して極めて大きな存在とな っている現状を見直すことが、この問題に取り組む上でも重要であると考える。すなわち、子供たちの生活時 間に学校が占めるウエイトが高い状況においては、いじめを受ける子供や登校拒否の子供にとっては、そのこ とが心にさらに重圧を加える要因となっている。こうした意味からも、後述するように、学校をスリム化し、 家庭・学校・地域社会の間のバランスを改善するとともに、学校外で多彩な生活や体験の場を持つことが求め られよう。 第七に、いじめや登校拒否の問題の背景やその解決に向けた取組に関する研究を推進する必要性を指摘してお きたい。これまで述べてきたように、この問題の背景は複雑であり、取組の方途も多岐にわたっているが、こ れらをより実り多いものにするためにも、幅広い研究が行われることが必要である。その際、いじめや登校拒 否の問題については、欧米諸国等においても様々な研究を行い、その成果を踏まえた取組を進めており、これ らの国々との情報の交換を含め、多様な研究を進めていくことも必要と考える。 第2部,学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方 第1章,これからの学校教育の在り方 (1)これからの学校教育の目指す方向 [1]これからの学校 いまだ成長の過程にある子供たちに、組織的・計画的に教育を行うという学校の基本構造はこれからも変わら ないが、これまで、第1部で述べてきたことを踏まえるとき、これからの学校は、[生きる力]を育成すると いう基本的な観点を重視した学校に変わっていく必要がある。 我々は、これからの学校像を次のように描いた。 まず、学校の目指す教育としては、 (a),[生きる力]の育成を基本とし、知識を一方的に教え込むことになりがちであった教育から、子供たちが、 自ら学び、自ら考える教育への転換を目指す。そして、知・徳・体のバランスのとれた教育を展開し、豊 かな人間性とたくましい体をはぐくんでいく。 (b),生涯学習社会を見据えつつ、学校ですべての教育を完結するという考え方を採らずに、自ら学び、自ら考 える力などの[生きる力]という生涯学習の基礎的な資質の育成を重視する。 そうした教育を実現するため、学校は、 (c),[ゆとり]のある教育環境で[ゆとり]のある教育活動を展開する。そして、子供たち一人一人が大切に され、教員や仲間と楽しく学び合い活動する中で、存在感や自己実現の喜びを実感しつつ、[生きる力] を身に付けていく。 (d),教育内容を基礎・基本に絞り、分かりやすく、生き生きとした学習意欲を高める指導を行って、その確実 な習得に努めるとともに、個性を生かした教育を重視する。 (e),子供たちを、一つの物差しではなく、多元的な、多様な物差しで見、子供たち一人一人のよさや可能性を 見いだし、それを伸ばすという視点を重視する。 (f),豊かな人間性と専門的な知識・技術や幅広い教養を基盤とする実践的な指導力を備えた教員によって、子 供たちに[生きる力]をはぐくんでいく。 (g),子供たちにとって共に学習する場であると同時に共に生活する場として、[ゆとり]があり、高い機能を 備えた教育環境を持つ。 (h),地域や学校、子供たちの実態に応じて、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する。 (i),家庭や地域社会との連携を進め、家庭や地域社会とともに子供たちを育成する開かれた学校となる。 このような「真の学び舎」としての学校を実現していくためには、学校の教育活動全体について絶えず見直し、 改善の努力をしていく必要があるが、教育内容については、特に、次のような改善を図っていく必要がある。 [2]教育内容の厳選と基礎・基本の徹底 [1]で述べたように、これまでの知識の習得に偏りがちであった教育から、自ら学び、自ら考える力などの[生 きる力]を育成する教育へとその基調を転換していくためには[ゆとり]のある教育課程を編成することが不可 欠であり、教育内容の厳選を図る必要がある。 教育内容の厳選は、[生きる力]を育成するという基本的な考え方に立って行い、厳選した教育内容、すなわ ち、基礎・基本については、一人一人が確実に身に付けるようにしなければならない。豊かで多様な個性は、 このような基礎・基本の学習を通じて一層豊かに開花するものである。この意味で、「あまりに多くのことを 教えることなかれ。しかし、教えるべきことは徹底的に教えるべし」というホワイトヘッド(1861−19 47,イギリスの哲学者)の言葉を改めてかみしめる必要がある。 教育内容の厳選は、学校で身に付けるべき基礎・基本は何か、各学校段階や子供たちの心身の発達段階に即し て適当なものは何かを問いつつ、徹底して行うべきであり、教育内容の厳選を、これからの学校の教育内容の 改善に当たっての原則とすべきである。 また、学校教育に対しては、社会の変化等に伴い、絶えずその教育内容を肥大化・専門化させる要請があると 考えられるが、学校教育で扱うことのできるものは、時間的にも、内容の程度においても、一定の限度がある ことは言うまでもない。したがって、新たな社会的要請に対応する内容を学校教育で扱うこととすることにつ いては、教育内容を厳選するという原則に照らし、学校外における学習活動との関連も考慮しつつ、その必要 性を十分吟味する必要がある。そして、新たな内容を学校教育に取り入れる場合は、その代わりに、社会的な 必要性が相対的に低下した内容を厳選する必要がある。 (育成すべき資質・能力) このような考え方に立って、初等中等教育においては、学校段階や子供たちの心身の発達段階によって、その 程度、内容、重点の置き方等が異なるものの、特に、次のような資質・能力の育成を重視し、教育内容を基礎 ・基本に絞り、その厳選を図る必要がある。 (a),国語を尊重する態度を育て、国語により適切に表現する能力と的確に理解する能力を養うこと。 (b),我が国の文化と伝統に対する理解と愛情を育てるとともに、諸外国の文化に対する理解とこれを尊重する 態度、外国語によるコミュニケーション能力を育てること。 (c),論理的思考力や科学的思考力を育てること。また、事象を数理的に考察し処理する能力や情報活用能力を 育てること。 (d),家庭生活や社会生活の意義を理解し、その形成者として主体的・創造的に実践する能力と態度を育てるこ と。 (e),芸術を愛好し、芸術に対する豊かな感性を育てること。また、運動に親しむ習慣、健康で安全な生活を生 涯にわたって送る態度の基礎を育てること。 (f),他人を思いやる心、生命や人権を尊重する心、自然や美しいものに感動する心、正義感、公徳心、ボラン ティア精神、郷土や国を愛する心、世界の平和、国際親善に努める心など豊かな人間性を育てるとともに、自 分の生き方を主体的に考える態度を育てること。 (教育内容の厳選の視点) 現行の学習指導要領の改訂等に当たっては、これからの学校教育で育成すべき資質・能力を踏まえ、少なくと も次のような視点に立って教育内容の厳選を行うことが必要であると考える。その際には、学校生活に[ゆと り]を持たせるためにも、全体として授業時数の縮減を行うことが必要である。それを、小・中学校での例で 示せば、次のとおりである。 (a),中学校社会科の地理における諸地域の産業や生産物等の詳細かつ網羅的な学習、歴,史における各時代の 詳細な文化史、中学校理科の生物における動物の詳細な器官名,や消化酵素名など、実際の指導において 単なる知識の伝達や暗記に陥りがちな内容,の精選を図る。 (b),中学校の古典の指導においては、古典に親しむことに重点を置き、文語文法に深入,りしないようにする ことや、小・中学校の国語におけるあらゆる文学形式の丹念な,読解、中学校の外国語における関係代名 詞や不定詞を用いた文型で実生活では使う,ことが少ない表現方法、精密な文法構造の解釈など、実際の 指導において、内容の,取扱いが行き過ぎになりがちな内容の精選を図る。 (c),小学校理科における天体に関する内容、中学校理科における電流や遺伝に関する内,容のうち子供たちに とって高度になりがちな内容、算数の理解度に差が生じ始める,小学校中・高学年からの算数・数学の内 容(分数や関数の一部など)など、各学校,段階の子供たちにとって理解が困難な内容については、精選 又は上学年や上級学校,への移行を行う。 (d),我が国の歴史に関する学習などは繰り返し学習することの効果もあるが、小学校と,中学校とでいわゆる 通史を二度行わないようにすることや、体育における各種の運,動を子供たちが発達段階や適性等に応じ て適切に履修できるようにすることなど、,学校段階における重点の置き方に一層の工夫を加えるなどし て、各学校段階間又は,各学年間で重複する内容については、できるだけ精選を図る。 (e),音楽における各種の奏法、美術における各種の表現方法、技術・家庭における電気,機器の仕組みや各種 の被服製作など、学校外活動や将来の社会生活で身に付けるこ,とが適当な内容の精選を図る。 (f),環境や人の成長・健康に関する内容をはじめとして各教科間で重複する内容は、総,合的な学習等を行う まとまった時間を設定することや各教科間の関連的な指導を一,層進めることなどを考慮し、精選を図る。 (g),特別活動については、教科の学習や学校外活動等との関連を考慮しつつ、その実施,や準備の在り方など を見直し、精選を図る。 [3]一人一人の個性を生かすための教育の改善 [生きる力]をはぐくむ上では、一人一人の個性を生かした教育を行うことは極めて重要であり、そうした 観点から、教育課程の弾力化、指導方法の改善、特色ある学校づくり等を一層進める必要がある。 (小・中学校における改善) 小・中学校においては、教育内容の厳選によって生じる[ゆとり]を生かし、[ゆとり]を持った授業の中で、 子供たちの発達段階に即し、ティーム・ティーチング、グループ学習、個別学習など指導方法の一層の改善を 図りつつ、個に応じた指導の充実を図る。また、自ら学び、自ら考える教育を行っていく上でも、問題解決的 な学習や体験的な学習の一層の充実を図る。 とりわけ、中学校においては、小学校で培われた資質や能力をよりよく向上させるとともに、義務教育段階で はあるものの、小学校と比べ、生徒の能力・適性、興味・関心等の多様化が一層進む時期であることを踏まえ、 生徒の特性等に応じることができるよう、履修の選択幅の一層の拡大を図る必要がある。 このため、共通に履修させる部分を厳選し、選択教科に充てる授業時数を拡大するとともに、各教科等の授業 時数の選択幅の拡大など教育課程の一層の弾力化を図る。 また、特色ある学校づくりを推進するため、その学校や地域の実態に応じて、創意工夫が十分発揮できるよう、 小・中学校を通じて教育課程の一層の弾力化を図る必要がある。各学校が、それぞれに努力するとともに、教 育委員会は、こうした学校の努力を積極的に支援していく必要がある。 (高等学校における改善) 高等学校においては、生徒の能力・適性、興味・関心等の多様化の実態を踏まえるとともに、生徒の長所や特 技を伸ばし、それぞれの個性に応じ、基礎・基本を深めさせることが必要である。 このため、指導方法について、小・中学校と同様の改善を図るとともに、教育内容については、すべての生徒 が共通に履修するものを最小限度にとどめることとして、必修教科・科目の内容とその単位数を相当程度削減 するとともに、生徒が自らの在り方や生き方に応じて選択する教科・科目の拡大など教育課程の一層の弾力化 を図る必要がある。 また、生徒の多様な学習ニーズにこたえるため、他の高等学校や専修学校における学習成果を単位認定する制 度の一層の活用を図っていく必要がある。 さらに、生徒の学校外における体験的な活動や、自らの在り方・生き方を考えて努力した結果をこれまで以上 に積極的に評価していくこととし、ボランティア、企業実習、農業体験実習、各種資格取得、大学の単位取得、 文化・スポーツ行事における成果、放送大学の放送授業等を利用した学習、各種学校・公開講座等における学 習、テレビやインターネット、通信衛星などマルチメディアを利用した自己学習などについて、各高等学校の 措置により、高等学校の単位として認定できる道を開くことを積極的に検討していく必要がある。 このほか、自己の能力・適性、興味・関心等に基づき進路変更したり、職業経験・社会経験を通して得た問題 意識を持って再度高等学校で学習できるようにするため、各高等学校において、高校生の他校・他学科への移 動の可能性を積極的に広げるとともに、高等学校を一度離れた者が様々な経験を経た上で希望すれば学校に戻 ることができるような道を格段に広げていく必要がある。 また、特色ある学校づくりを推進するため、小・中学校同様、その学校や地域の実態に応じて、創意工夫が十 分発揮できるよう、教育課程の一層の弾力化を図る。特に高等学校教育の個性化・多様化は大きな課題であり、 各学校が、それぞれに一層努力するとともに、教育委員会は、こうした各学校の努力を積極的に支援していく 必要がある。 総合学科については、当面、生徒の教育の機会を確保するため、通学範囲には必ず用意されているよう整備を 進めることが必要である。 [4]豊かな人間性とたくましい体をはぐくむための教育の改善 先に述べたとおり、豊かな人間性やたくましく生きるための健康や体力は、[生きる力]を形作る大きな柱で ある。 これまでにもしばしば指摘されてきたことであるが、よい行いに感銘し、間違った行いを憎むといった正義感 や公正さを重んじる心や実践的な態度、他人を思いやる心、生命や人権を尊重する心、美しいものに感動する 心、ボランティア精神などの育成とともに、学校教育においては、特に、集団生活が営まれているという特質 を生かしつつ、望ましい人間関係の形成や社会生活上のルールの習得などの社会性、社会の基本的なモラルな どの倫理観の育成に一層努める必要がある。 また、子供たちの発達段階を踏まえながら、人間としての生き方や在り方を考えさせることも大切であり、特 に勤労観や職業観の育成を図ることの重要性も指摘しておきたい。,このような豊かな人間性をはぐくむための 教育は、道徳教育はもちろんのこと、特別活動や各教科などのあらゆる教育活動を通じて一層の充実を図るべ きであるが、その際には、特に、ボランティア活動、自然体験、職場体験などの体験活動の充実を図る必要が あると考える。 また、たくましく生きるための健康や体力をはぐくむために、健康教育や体育が重要であることは改めて言う までもない。これらについては、教科における指導はもとより、あらゆる教育活動を通じて、適切に配慮して いく必要がある。特に、これからの健康の増進や体力の向上に関する指導に際しては、子供たちが健康の増進 や体力の向上の必要性を十分理解した上で、自ら健康を増進する能力や、興味・関心や適性等に応じ、適切に 運動することのできる能力を育てることが大切である。そして、心身の健康増進活動や日常的なスポーツ活動 の実践を促すことによって、長寿社会の到来を展望し、生涯にわたり健康な生活を送るための基礎が培われる ようにすることが重要と考える。 [5]横断的・総合的な学習の推進 子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくためには、言うまでもなく、各教科、道徳、特別活動などのそれぞ れの指導に当たって様々な工夫をこらした活動を展開したり、各教科等の間の連携を図った指導を行うなど様 々な試みを進めることが重要であるが、[生きる力]が全人的な力であるということを踏まえると、横断的・ 総合的な指導を一層推進し得るような新たな手だてを講じて、豊かに学習活動を展開していくことが極めて有 効であると考えられる。 今日、国際理解教育、情報教育、環境教育などを行う社会的要請が強まってきているが、これらはいずれの教 科等にもかかわる内容を持った教育であり、そうした観点からも、横断的・総合的な指導を推進していく必要 性は高まっていると言える。 このため、上記の[2],の視点から各教科の教育内容を厳選することにより時間を生み出し、一定のまとまった 時間(以下、「総合的な学習の時間」と称する。)を設けて横断的・総合的な指導を行うことを提言したい。 この時間における学習活動としては、国際理解、情報、環境のほか、ボランティア、自然体験などについての 総合的な学習や課題学習、体験的な学習等が考えられるが、その具体的な扱いについては、子供たちの発達段 階や学校段階、学校や地域の実態等に応じて、各学校の判断により、その創意工夫を生かして展開される必要 がある。 また、このような時間を設定する趣旨からいって、「総合的な学習の時間」における学習については、子供た ちが積極的に学習活動に取り組むといった長所の面を取り上げて評価することは大切であるとしても、この時 間の学習そのものを試験の成績によって数値的に評価するような考え方を採らないことが適当と考えられる。 さらに、これらの学習活動においては、学校や地域の実態によっては、年間にわたって継続的に行うことが適 当な場合もあるし、ある時期に集中的に行った方が効果的な場合も考えられるので、学習指導要領の改訂に当 たっては、そのような「総合的な学習の時間」の設定の仕方について弾力的な取扱いができるようにする必要 がある。 [6]教科の再編・統合を含めた将来の教科等の構成の在り方 学校の教科等の構成の在り方については、学校教育に対する新たな社会的要請、学校教育を取り巻く環境の変 化、教育課程に関する最新の学問成果等を勘案し、不断に見直していく必要があるが、この問題は、理論的な 検討とともに学校現場での研究実践の積み重ねを行うほか、教員養成等、教科等の見直しに伴う種々の条件整 備も考慮した総合的な検討を要する問題である。 このような考えの下に、教科の再編・統合を含めた将来の教科等の構成の在り方について、早急に検討に着手 する必要がある。そして、この問題の特質にかんがみ、検討の場として、教育課程審議会に、教科の再編・統 合を含めた教科等の構成の在り方について継続的に調査審議する常設の委員会を設けるとともに、その審議の 成果を施策に反映することが適当である。この調査研究に当たっては、国立教育研究所、大学、各都道府県の 教育センターや民間教育研究団体等の研究者の研究成果、国立大学の附属学校や研究開発学校の実践研究など の様々な研究成果を適切に反映するようにする必要があり、また、その際は、大学等の研究者等によるカリキ ュラムに関する研究を一層推進するための積極的な支援措置を講じることが必要である。 なお、今後の教育課程審議会の発足に当たっては、学校関係者や教科の専門家の意見を尊重することはもとよ りであるが、幅広い各界の人々や保護者など広く国民の声を反映するような配慮を望んでおきたい。 (2)新しい学校教育の実現のための条件整備等 (1)で述べたような学校教育を実現していくためには、様々な面の改善・充実を図っていく必要があるが、特 に以下のような条件整備等を図ることは極めて重要なことと言わなければならない。 [1]教員配置の改善 まず、各学校において一人一人の子供を大切にした教育指導ができるような環境づくりが大切である。とりわ け、個に応じた教育をこれまで以上に推進していくためには、各学校において、学習集団の規模を小さくした り、指導方法の柔軟な工夫改善を促したり、さらには、中学校、高等学校での選択履修の拡大を図っていくこ とができるよう、人的な条件整備を一層進めることが必要である。 教員配置については、これまでも計画的な改善が進められてきたところであるが、教員一人当たりの児童生徒 数を、例えば欧米諸国と比較してみた場合、今なお、総じて大きなものとなっている。様々な前提条件が異な るため、これらを我が国と単純に比較するのは困難であるが、今後、教員配置の改善を進めるに当たっては、 当面、教員一人当たりの児童生徒数を欧米並みの水準に近づけることを目指して改善を行うことを提言したい。 なお、教員配置の改善に関連して、社会人の活用や小規模な中学校における免許外教科担任の解消などを図る 観点から、小・中学校において非常勤講師の活用が一層進められるような措置が講じられるよう提言したい。 [2]教員の資質・能力の向上 あらゆる教育の問題は教師の問題に帰着すると言われるように、子供たちに直接接し、指導に当たる教員に、 優れた人材を確保することの重要性は、これまでも繰り返し唱えられてきたところであるが、子供たちに[生 きる力]をはぐくむことを基本とするこれからの学校教育の実現を展望するとき、教員の資質・能力の向上を 図っていくことが、その実現に欠かせないことを改めて訴えたい。また、学校教育の基調の転換に向けた教員 の意識改革も極めて重要であることを併せて指摘しておきたい。 教員に強く要請される、[生きる力]をはぐくむ学校教育を展開するための豊かな人間性と専門的な知識・技 術や幅広い教養を基盤とする実践的な指導力を培うためには、教員の養成、採用、研修の各段階を通じ、施策 の一層の充実を図っていく必要がある。 教員に求められる資質・能力については、学校段階によって異なるが、教員養成や研修を通じて、教科指導や 生徒指導、学級経営などの実践的指導力の育成を一層重視することが必要であると考えられる。特に、今日の いじめや登校拒否などの深刻な状況を踏まえるとき、教員一人一人が子供の心を理解し、その悩みを受け止め ようとする態度を身に付けることは極めて重要であると言わなければならない。 教員養成については、[生きる力]の育成を重視した学校教育を担う教員を育てるとの観点に立って、改めて、 その改善・充実について検討することを提言したい。その際には、教育相談を含めた教職科目全体の履修の在 り方、教育実習の期間・内容の在り方、さらには、幅広く将来を見通して、修士課程をより積極的に活用した 養成の在り方などに特に留意する必要がある。もちろん、こうした検討を待つまでもなく、教員養成を行う大 学においては、ファカルティ・ディベロップメント(教員が授業内容・方法を改善し、向上させるための組織 的な取組の総称)を進めつつ、教育現場の実際のニーズを踏まえた教育やこれに資する研究を充実させていく ことを求めたい。 教員研修については、多様な研修機会を体系的に整備していく必要がある。その際に、大学院等における現職 教育や、教員の社会的視野を広げるため、民間企業、社会教育施設、社会福祉施設等での長期にわたる体験的 な研修を積極的に進めることが必要である。また、これからはいじめ問題への対応など、子供たちの心のケア が一層求められることにかんがみ、すべての教員について基礎的なカウンセリング能力の育成を充実する必要 があるが、特に養護教諭については、採用時の研修をはじめとする現職研修の格段の充実を図る必要がある。 教員の採用に当たっては、人物評価重視の方向で選考方法の多様化や評価の在り方を改善し、教員にふさわし い優秀な人材を確保していく必要がある。具体的には、面接や実技試験の充実、筆記試験とその他の試験との 比重の見直し、ボランティア活動等の生活体験・社会経験の適切な評価、あるいは、同一の採用枠においても 異なる尺度で多様な選考方法を採ることなどにより、人間的魅力や使命感、教育的実践力を備えた多様な人材 を教育界に迎えることができるようにすることが望まれる。また、採用者数が年度によって極端に増減するこ とは、教員の年齢構成に不均衡を生じさせるほか、優秀な人材確保の支障となることも懸念されることから、 都道府県教育委員会等は、できるだけ採用者数の平準化が図られるよう、より長期的な視野に立った、計画的 な教員採用・人事に努める必要があろう。その際、採用に当たっての年齢制限の緩和、学校種別ごとの採用区 分の弾力化、人事交流の実施などの工夫も有効と思われる。また、生き生きとした学校づくりの要である教員 の適材適所の配置について、一層配慮していくことが重要である。 なお、教員の養成、採用、研修の各段階を通じ、より円滑かつ効果的に教員の資質・能力の向上を図るために は、大学の教員養成関係者と教育委員会等の採用・研修関係者との間の一層の連携・協力が不可欠である。 [3]学校外の社会人の活用 各学校に配置される教員について、その配置の改善や資質・能力の向上を図ることは、もちろん重要であるが、 学校外の社会人の指導力を、学校教育の場に積極的に活用することを提言したい。 幅広い経験を持ち、優れた知識・技術を持つ社会人を活用することは、学校の教育内容を多様なものとすると ともに、特に、子供たちに社会性や勤労観・職業観を育成したり、実技指導の充実を図る上で有効と考えられ る。また、ともすれば閉鎖的となりがちな学校に、外部の新しい発想や教育力を取り入れることにより、教員 の意識改革や学校運営の改善を促すことも期待される。さらに、小学校の専科教育の充実や中学校・高等学校 の選択履修拡大等の観点からも社会人の活用が有効と考えられる。このような考えに立って、小・中・高等学 校において、特別免許状や特別非常勤講師制度の活用をはじめ、外国語指導助手(ALT)や情報処理技術者 (SE)の増員を図るなど、社会人の活用を一層促進するための施策を進める必要がある。 また、豊富な知識・経験を有する退職教員等を積極的に活用することも併せて提言したい。 [4]学校施設など教育環境の整備 子供たちの学習の場であり、生活の場である学校施設などの教育環境を豊かに整えることは、子供たちの健や かな成長・発達を促し、豊かな人間性をはぐくむ上で、また、子供たちの学習をより充実したものとする上で、 極めて大切なことである。 教室はもとより、例えば、屋外の環境整備やランチルームの整備を図ることは、学校全体を[ゆとり]と潤い のある環境にしていく上で、極めて重要なことである。また、多目的スペースの整備など個に応じた指導を展 開できる柔軟な教育環境の整備を進めるとともに、高度情報通信社会の進展を踏まえ、学校教育の質的改善や 情報教育に資するため、情報のネットワーク環境の整備や学校図書館の充実などに積極的に取り組んでいく必 要がある。 [5]関係機関との連携 これまで、学校関係者の間では、学校教育を学校内だけで行おうとする傾向が強かったことは否めない。 これからの学校教育においては、単に学校だけを教育の場と考えるのでなく、子供たちの体験的な学習の場を 広げ、豊かな社会性をはぐくんでいくために、社会教育施設、青少年教育施設、文化施設、スポーツ施設など の公共施設や企業等の機関との連携を積極的に図り、教育の場を広く考えて、教育活動を展開していくことが 必要である。 また、いじめや登校拒否の問題など様々な教育課題が生じているが、それらへの取組に当たっても、学校だけ で取り組むべきもの、との狭い固定的な考え方にとらわれることなく、児童福祉、人権擁護、警察など広く関 係機関との連携を一層図る必要がある。 [6]様々な専門家と教員等との連携 今、学校は、いじめや登校拒否の問題をはじめ、心と体の健康の問題など、様々な角度から、対処しなければ ならない教育課題に直面している。 こうした様々な教育課題に対処するためには、学校として校長のリーダーシップの下、教諭、養護教諭、学校 栄養職員、事務職員などすべての教職員が相互に協力しつつ、一体となって取り組むことはもとより、学校医、 学校歯科医、学校薬剤師、スクールカウンセラー、市町村の教育相談員などそれぞれの分野で専門知識を持つ 専門家とも積極的に連携し、ティームを組んで、これらの教育課題に対処することが重要である。 特に、昨今のいじめ問題等の状況にかんがみ、子供に対する相談のみならず、教員に対する助言を行うなど学 校において重要な役割を果たしているスクールカウンセラーについては、その配置の一層の充実・促進を図る べきである。 [7]幼児教育の充実 生涯にわたる人間としての健全な発達や社会の変化に主体的に対応し得る能力の育成などを図る上で、幼児期 における教育は、その基礎を培うものとして極めて重要なものである。 特に、今日、都市化、核家族化、少子化が進行する中で、幼稚園が、家庭や地域社会とあいまって、同年齢や 異年齢の幼児同士による集団での遊び、自然との触れ合い等の直接的・具体的な体験など、幼児期に体験すべ き大切な学習の機会や場を用意することの重要性は、ますます高まってきている。 また、幼稚園において、健康な心身、社会生活における望ましい習慣や態度、自発性、意欲、豊かな感情、物 事に対する興味・関心、表現力等といった小学校以降における学習の基盤となるものをしっかりと育てること は、将来の体系だった学習を実りあるものとし、[生きる力]をはぐくむ教育に大いに資することとなるもの である。 これらは、保育所に通っている3〜5歳児についても同様であり、その意味で、教育内容について幼稚園と保 育所との共通化などは、一層配慮することが望まれることである。一方、女性の社会進出等が進む状況に対応 し、幼稚園においても、保育所との目的・機能の差異に留意しつつ、預かり保育等運営の弾力化を図っていく ことが必要となっている。 このような幼児期における教育の重要性を踏まえて、希望するすべての3〜5歳児が幼稚園教育の機会を与え られ、様々な教育を受けられるようにすることが望ましく、そのための幼稚園の整備を推進する必要があると 考える。また、育児に関する相談を行ったり、子育ての交流の場を提供するなど地域における幼児教育のセン ターとしての機能を充実するなど、幼稚園教育の一層の充実方策や、幼稚園と保育所、幼稚園と小学校の連携 協力の在り方を含め、今後、幼児期における教育について幅広い観点から検討していく必要がある。 [8]障害等に配慮した教育の充実 障害のある子供たちに、可能な限り社会的な自立や参加をし得る[生きる力]を培うことは極めて重要なこと である。現在、障害があることにより、通常の学級の指導を受けることが困難であったり、それだけでは能力 を十分に伸ばすことが困難な子供たちについては、一人一人の障害の特性等に応じ、特別の教育内容・方法、 小人数学級などにより、きめ細かな教育が行われている。盲・聾・養護学校においては、通学が不可能な子供 たちには、その家庭等に教員を派遣して指導する小・中学部の訪問教育も実施されている。障害が軽度な子供 たちには、通常の学級に在籍しつつ、一定時数、別に特別の指導を受ける通級指導が拡充されつつある。また、 小・中学校の通常の学級において指導を受けることが適当で歩行が不自由な子供のためには、エレベーター、 スロープ、専用トイレ等の設置を進めている。このように、障害のある子供たちの教育については、これまで、 その充実のための努力が種々払われてきているが、これらの子供たちに[生きる力]をはぐくみ、可能な限り 社会的な自立や参加を実現させる観点に立って、一層指導内容・方法・体制の改善・充実や多様化に努め、教 育条件の整備を進めることが必要であると考える。また、学習障害(LD)児に対する指導内容・方法等につ いての研究を一層促進する必要がある。 盲・聾・養護学校や特殊学級に通う子供たちにとって、学校の内外において、様々な人々と触れ合うことは、 極めて大切なことである。こうした観点から、小・中学校の通常の学級の子供や地域の人々と共に過ごす時間 や場を設けるために、運動会等の学校行事やクラブ活動、給食、また、一部の教科などにおいて交流教育が行 われてきている。このような交流教育は、障害のある子供たちにとって極めて有意義であるばかりでなく、参 加する教員やすべての子供たち、また、地域の人々にとっても非常に有意義な活動であり、今後、このような 交流の機会を、更に増やすための努力と工夫が必要である。そして、小・中学校等の教員や子供たちはもちろ ん社会全体が彼らへの理解を一層深めていくことを強く望むものである。 また、障害のある子供の保護者は、一般に、かなり早い時期に子供の障害等に気づき、子供の発達の遅れや将 来について深刻な不安や悩みを持つことが多いと考えられる。このような保護者の不安や悩みにこたえるため に、子供の将来の発達の可能性について正確な情報を提供したり、家庭での教育について相談を行ったりする 早期教育相談体制の充実や盲・聾・養護学校の幼稚部の整備が必要である。 さらに、障害のある子供たちの社会的自立を最大限に実現するという見地から、盲・聾・養護学校、特に養護 学校の高等部のより一層の拡充整備が必要と考える。そして、高等部の生徒の卒業後の職業的な自立に資する ための職業教育の改善・充実や多様化を図るとともに、進路指導体制を強化し、企業等との連携や卒業者への 支援の取組などを一層進めることが必要である。また、養護学校高等部における訪問教育の実施についても検 討することが必要である。 教員については、障害のある子供たちの教育の充実のために、養成、採用、研修を通じて、その専門性・指導 力を一層向上させるとともに、小・中学校等の教員に障害のある子供たちへの理解を深めさせるため、異校種 間の人事交流の促進や研修の充実を図っていく必要がある。 第2章,これからの家庭教育の在り方 (1)これからの家庭教育の在り方 家庭教育は、乳幼児期の親子のきずなの形成に始まる家族との触れ合いを通じ、[生きる力]の基礎的な資質 や能力を育成するものであり、すべての教育の出発点である。 しかしながら、近年、家庭においては、過度の受験競争等に伴い、遊びなどよりも受験のための勉強重視の傾 向や、日常の生活におけるしつけや感性、情操の涵養など、本来、家庭教育の役割であると考えられるものま で学校にゆだねようとする傾向のあることが指摘されている。 加えて、近年の都市化、核家族化等により地縁的つながりの中で子育ての知恵を得る機会が乏しくなったこと や個人重視の風潮、テレビ等マスメディアの影響等による、人々の価値観の大きな変化に伴い、親の家庭教育 に関する考え方にも変化が生じている。このようなことも背景に、無責任な放任や過保護・過干渉が見られた り、モラルの低下が生じているなど、家庭の教育力の低下が指摘されている。 我々は、こうした状況を直視し、改めて、子供の教育や人格形成に対し最終的な責任を負うのは家庭であり、 子供の教育に対する責任を自覚し、家庭が本来、果たすべき役割を見つめ直していく必要があることを訴えた い。親は、子供の教育を学校だけに任せるのではなく、これからの社会を生きる子供にとって何が重要でどの ような資質や能力を身に付けていけばよいのかについて深く考えていただきたい。 とりわけ、基本的な生活習慣・生活能力、豊かな情操、他人に対する思いやり、善悪の判断などの基本的倫理 観、社会的なマナー、自制心や自立心など[生きる力]の基礎的な資質や能力は、家庭教育においてこそ培わ れるものとの認識に立ち、親がその責任を十分発揮することを望みたい。 そして、社会全体に[ゆとり]を確保する中で、家庭では、親さらには祖父母が、家族の団らんや共同体験の 中で、愛情を持って子供と触れ合うとともに、時には子供に厳しく接し、[生きる力]をはぐくんでいってほ しいと考える。同時に、それぞれが自らの役割を見いだし、主体的に役割を担っていくような家庭であってほ しいと思う。 (2)家庭教育の条件整備と充実方策 [1]家庭教育の在り方と条件整備 家庭における教育は、本来すべて家庭の責任にゆだねられており、それぞれの価値観やスタイルに基づいて行 われるべきものである。したがって、行政の役割は、あくまで条件整備を通じて、家庭の教育力の充実を支援 していくということである。 このような考え方に立って、我々は、[2],において家庭教育に関する学習機会の充実、子育て支援ネットワー クづくりの推進、親子の共同体験の機会の充実、父親の家庭教育参加の支援・促進を提言することとしたが、 条件整備の第一としては、まず、家族がそろって一緒に過ごす時間を多く持ち、一緒に生活や活動をすること ができるような環境を整えるということが重要である。そして、そのためには、週休2日制や年次休暇の取得 推進など年間の勤務時間の縮減、育児休業制度の一層の普及・定着、受験競争の緩和などの条件整備を進め、 社会全体に[ゆとり]を確保するとともに、家庭を大切にする社会づくりが重要だと考える。 また、家庭教育については、ともすれば、母親に責任がゆだねられ、父親の存在感が希薄であるとの指摘がし ばしばなされるところであり、父親の家庭教育に対する責任の自覚を求めたい。このために、その時間の確保 を父親に訴えるとともに企業には協力方を強く呼びかけたい。また、親がPTA活動、ボランティア活動、地 域の様々な行事等に参加し、それらを通じて得た経験や、人々とのつながりを家庭教育に生かしていくことも 重要だと考えられるほか、育児の経験者として子育ての様々な知恵を持っている祖父母が孫の教育に参加して いくことは、一層重要になってくると考える。 [2]家庭教育の具体的な充実方策 以上のような考えの下に、家庭教育の充実を図るため次のような施策の推進を提言したい。我々はこれらの施 策展開を通し、子供を持つ親が家庭教育の重要性について再認識し、それぞれの家庭においてこれからの時代 にふさわしい子供の教育の在り方を確立し、子供たちが[ゆとり]と潤いのある家庭生活の中で[生きる力] をはぐくんでいくことを期待する。 (a)家庭教育に関する学習機会の充実 子供たちの[生きる力]をはぐくむためには、子供の成長のそれぞれの段階に応じた親としての教育的な配慮 が必要である。このため、親たちに対する子供の発達段階に応じた家庭教育に関する学習機会を一層充実すべ きである。その学習内容としては、特に、子供の発達段階と人間関係の在り方、他人を思いやる心や感性など の豊かな人間性や自制心、自立心などをはぐくむ家庭教育の在り方や子供とのコミュニケーションの図り方等 についての学習を重視する必要があると考える。なお、その際には、市町村教育委員会が、幼稚園や保育所、 保健所、病院、大学、民間教育機関等により実施されている子育てについての関連事業との連携を図り、子供 の発達段階に応じた体系的・総合的な学習機会を提供するよう配慮する必要がある。 また、こうした施策を進めるに当たっては、これまで家庭教育に関する学習機会に参加したくてもできなかっ た人々に対する配慮がなされなければならない。特に、共働き家庭が増加していること等を踏まえ、自宅や職 場等身近な場所に居ながらにして学習できるような環境を整備する必要がある。このため、家庭教育に関する 学習内容その他の情報をテレビ番組等を通じて提供するとともに、近年、家庭においてコンピュータの普及が 著しいことを踏まえ、パソコン通信やインターネット等の新しいメディアを通じて豊富に提供していく必要が ある。メディアの利用は、特に、過疎地域の家庭教育の充実を図る上でも非常に重要であると考える。 なお、少子化、核家族化、共働き家庭の増加、子供の生活の変化等が進む中で、子供の発達段階に応じて身に 付けるべき基本的生活習慣や家庭や地域社会で経験することが望ましい生活体験、社会体験、自然体験などに ついての情報は、大変貴重なものと考えられる。これらに関する資料が作成され、家庭教育学級等各種の学習 機会で積極的に活用されることも意義のあることと考えられる。 これから親になる青年を対象に、意識啓発や保育ボランティア等の育児体験など人生の早い時期から子育てに 関する学習機会を提供することも必要なことである。 また、子育て経験を有する祖父母等が、孫の教育に積極的にかかわることは大いに意義のあることと考えられ る。そのための支援策として、祖父母等が、子供の生活や考え方、近年の家庭・家族の変化や教育をめぐる動 き等について学習する機会を設けることも考えられてよい。 (b)子育て支援ネットワークづくりの推進 核家族化や女性の社会進出が進む中で、子育てに対する不安感や負担感を感じる親が増大している。このよう な状況を踏まえて、(a),で提言した施策の推進とともに、親に対する相談や情報提供の充実など子育てに対す る支援体制の整備を図る必要がある。そして、そのための方策としては、専門家や専門の機関等による電話や 面接での相談体制の整備を図ることが必要であるが、その場合には、特に各市町村単位でのきめ細かな相談体 制を整備することが望ましいと考える。また、そこで相談に当たるスタッフとして、親の悩み等に対するカウ ンセリングの能力を備えた家庭教育関係指導者を養成することが重要であるが、そのためには、大学等高等教 育機関や生涯学習センター等においてカウンセリングに関する講座を開設することなども有効な方策である。 さらに、子供を持つ親と地域の子育て経験者との交流の促進や子育て支援グループの育成による相互扶助の仕 組みづくりなどを通し、日常的な生活圏の中での子育てのネットワークづくりを提案したい。そして、そのネ ットワークは、特に障害のある子供がいる家庭、ひとり親家庭、単身赴任家庭等に十分配慮したものであって ほしい。 また、幼稚園が、地域社会における子育て支援の一つの核として、親等を対象に、幼児教育相談や子育て公開 講座を実施したり、子育ての交流の場を提供したりするなど、地域の幼児教育のセンターとしての機能を充実 し、家庭教育の支援を図っていくことも期待したい。 (c)親子の共同体験の機会の充実 親子で様々な共同体験、交流活動を行う機会(例えば、ボランティア活動、植物栽培体験、動物飼育体験、ス ポーツ活動や芸術鑑賞、創作活動、地域の歴史探訪、読書会の開催など)を行政は積極的に提供すべきだと考 える。親と子が同じ体験を持つことは親のものの見方、子供の考え方をお互いが知り合う上で、また、場合に よっては同じ価値観を共有する上で非常に有効であり、これを機に親子のきずなが一層深まることが期待され る。 こうした親子共同体験や交流活動を促進する上で、施設整備の大切さを忘れてはならない。例えば、公民館に 親子が一緒に遊べる多目的ホールや談話室、託児室、育児相談室等の施設を整備したり、図書館に子供図書室、 児童室・児童コーナー、談話室等を設けるなど、親子が活動しやすいような配慮をすることは極めて重要なこ とである。 (d)父親の家庭教育参加の支援・促進 先に、これまで必ずしも十分に果たされてこなかった家庭教育における父親の役割の重要性を再認識すること の大切さを指摘したが、父親の家庭教育への参加を促進するため、父親等を対象とした家庭教育に関する学習 機会を企業等職場に開設すること、夜間・休日に開設すること、通信による講座を開設すること等学習機会を 充実する必要があると考える。また、企業等において子供たちが父親の職場を見学する機会や父親の仕事を疑 似体験する機会を提供するなど、子供たちに親の働く姿を見せる機会を提供することももっと考えられてよい であろう。 以上、家庭教育の充実方策について述べてきたが、これらの施策を含め、親が安心して子供を生み育てること のできる社会環境の整備に向けて、国、都道府県、市町村が一体となった取組を進める必要がある。 また、社会の変化や家庭の多様化等を背景として、より幅広い観点から家庭教育の在り方等を研究する必要が 生じており、家庭教育について学際的な研究が一層推進されることを期待したい。 第3章,これからの地域社会における教育の在り方 (1)これからの地域社会における教育の在り方 子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくためには、学校で組織的・計画的に学習する一方、地域社会の中で 大人や様々な年齢の友人と交流し、様々な生活体験、社会体験、自然体験を豊富に積み重ねることが大切であ る。地域社会における、これらの体験活動は、子供たちが自らの興味・関心や自らの考えに基づいて自主的に 行っていくという点で特に大きな意義を持っている。 共同作業や共同生活を営むことができる社会性や他者の個性を尊重する態度、日々新たに生じる課題に立ち向 かおうとする意欲や問題解決能力、精神力や体力、新しい物事を学ぼうとする意欲や興味・関心、文化活動や 自然に親しむ心などの[生きる力]は、学校教育や家庭教育を基礎としつつ、地域での様々な体験を通じて、 はじめてしっかりと子供たちの中に根づいていく。また、こうした地域社会での様々な体験は、学校教育で自 ら学び、自ら考え、主体的に判断し、表現し、行動できる資質や能力を身に付けていくための基礎となるので ある。 しかし、現実には、地域社会での活動を通しての子供たちの生活体験や自然体験は著しく不足していると言わ れ、また、都市化や過疎化の進行、地域における人間関係の希薄化、モラルの低下などから、地域社会の教育 力は低下していると言われている。 こうした状況の中で、我々は、今こそこれからの地域社会の在り方、また、そこでの教育の在り方について率 直に問い直してみる必要がある。そして、何より大切なことは、地域のアイデンティティーを確立し、地域の 人々のだれもが自分の住む地域に誇りと愛着を持ち、その中で、地域の大人たちが手を携えて、子供たちを育 てていく環境を醸成することであると考える。 このような視点に立って、我々は社会全体に[ゆとり]を確保する中で、地域社会が、地域の大人たちが子供 たちの成長を暖かく見守りつつ、時には厳しく鍛える場となること、また、地域社会が単に人々の地縁的な結 びつきによる活動だけでなく、同じ目的や趣味・関心によって結びついた人々の活動が活発に展開され、子供 たちをはぐくむ場となっていくことを強く期待するものである。 (2)地域社会における教育の条件整備と充実方策 [1]地域社会における教育の在り方と条件整備 地域社会の活動は、正に地域の人々の主体性や自主性を前提とするものであり、地域社会の大人一人一人が、 その一員であることの自覚を持ち、地域社会の活動を自主的に担っていくことがまず重要であると言わなけれ ばならない。 したがって、行政としては、地域の人々の主体性や自主性を尊重しつつ、地域の人々のニーズを的確に把握し、 それらを踏まえながらいかに地域社会の活動を活発にするかという視点に立って、活動の場や機会の提供、様 々な団体への支援、指導者の養成、情報提供など基盤整備に重点を置いて、施策を進めていく必要がある。そ の際、障害のある子供たちが積極的に参加できるような配慮を特に望んでおきたい。 また、第2章においても述べたとおり、地域社会の活動を充実させるためには、こうした施策とともに、社会 全体に[ゆとり]を確保するための条件整備を進める必要がある。 なお、この点に関連し、これまでの経済成長の過程で社会全般に定着してきた企業中心の行動様式について、 社員とともに、企業においても、その見直しを図り、社員も地域社会の一員であることの自覚を強く求めたい と思う。また、様々な職業生活や社会生活を経験した人々が、それらを通じて得たものを積極的に地域社会に 還元してほしい。そのことは、地域社会の活動をより豊かなものとしていく上で、大変に貴重なものと考えら れるのである。 [2]地域社会における教育の具体的な充実方策 学校週5日制の実施を契機に、各地で地域社会における子供たちの活動を推進するための様々な取組が進めら れているが、今後、さらにその充実を図るため、活動の場の充実、機会の充実や指導者の養成などについて、 幾つか具体的な方策を提言したい。これらの諸方策が、各地でそれぞれの地域の特色を生かして活発に実施さ れることを期待するものである。 (a)活動の場の充実 (遊び場の確保) 成長過程にある子供たちにとって「遊び」は、自主性や社会性の涵養、他人への思いやりの心の育成などに資 するものであり、調和のとれた人間形成を図る上で極めて重要な役割を担っている。都市部だけでなく、豊か な自然環境が残されている農村部においても、テレビを見たり、テレビゲームをするなど室内で遊ぶことが多 くなっている今日、子供たちの「遊び」の持つ教育的意義を改めて再確認し、自然や空地を利用したわんぱく 広場や冒険広場、公共施設や民間施設において遊び場やたまり場などをできるだけ多く用意し、子供たちが仲 間と自由に楽しく遊ぶことができるような環境を整えることを強く望むものである。また、その際には、遊び 場マップやたまり場マップを作成、配布することなどにより、子供たちが手軽にそうした場を利用できる環境 を整えていくことが必要であることも併せて指摘しておきたい。なお、家庭においても、遊びの持つ積極的な 意義を再認識することを望んでおきたい。 (学校施設の活用) 現在、休業土曜日には、青少年教育施設や公民館などを使って、子供たちの文化・スポーツ活動がイベント的 に行われている。しかし、子供たちが、遊びやスポーツ、音楽、美術、工作、あるいは科学の実験、読書、英 会話、コンピュータなど、本人の希望に応じた様々な活動を豊富に体験することができるようにするためには、 子供たちにとって最も身近で、かつ、使いやすく造られている学校施設をもっと活用していく必要がある。い わゆる学校開放は、かなり進んできているものの、その多くは運動場や体育館の開放であり、開放時間や開放 日数も限られている。今後は、学校図書館や特別教室も含め、学校の施設を一層開放し、様々な活動を行って いく必要がある。その際、親や地域の人々のボランティア参加による活動などは、子供たちの活動を豊かにす るためにも大いに推奨したい。 なお、学校開放について、土曜日や日曜日等についても実態として学校長に施設管理の責任がある場合もあり、 このため、これが進まないとの指摘もある。今後は、本来は学校開放時の管理責任が教育委員会にあることを 踏まえ、例えば、教育委員会は、管理責任を教育委員会に移すなどして、管理運営体制の整備と責任の明確化 を図るとともに、開放される学校施設が有効に活用されるよう指導員を委嘱するなどの工夫により、学校開放 の一層の充実に努めてほしい。 (社会教育・文化施設の整備充実と新たな事業展開) 公民館、図書館、博物館、青少年教育施設、美術館等、様々な社会教育・文化施設の整備が各地で進められて きている。もちろん、いまだ十分であるとは言えず、今後もさらに積極的に整備に取り組む必要があるが、そ の際、特に利用者の視点に立った整備・充実の重要性を指摘しておきたい。これらの施設が、子供たちのそれ ぞれの興味や関心に応じた主体的な学習の場として、子供たちにとって気軽に利用できるということが大切で ある。このことは、これらの施設の運営等についても同様で、子供たちのニーズを踏まえ、子供たちが行くこ とを楽しみにするような施設運営や参加型・体験型の事業を行っていくことが重要である。 そのために、例えば、公民館や生涯学習センター、青少年教育施設などにおいては、今後、工作教室や昔遊び 教室、史跡めぐりなどの子供・親子向けの事業や講座を充実したり、各種学習サークル活動などを活発に行う ことが望まれる。 また、読書は人格形成に大きな役割を果たすものであり、図書館においては、読書活動の一層の促進を図るた め、蔵書の充実のほか、子供への読書案内や読書相談、子供のための読書会などの事業の充実などにもっと努 めていく必要がある。 博物館、動物園、植物園、水族館などにおいては、動植物の観察や天体観測、化石の収集などそれぞれの地域 性や専門性を生かした体験型の講座や教室の充実、美術館や文化会館などにおいては、芸術の鑑賞、コンサー ト、絵画・彫刻・演劇等の実技講座などの子供・親子向けの事業の充実などが必要と考える。 また、科学や技術に対する子供たちの知的好奇心を高めるため、大学や研究所、企業などの協力を得て科学教 室を実施したり、科学博物館なども、子供たちが五感を通じて体験することができるような学習の場として整 備していく必要がある。 (新たなスポーツ環境の創造) 子供たちが地域のスポーツ活動に親しみ、スポーツ活動を通じ、「体」の面だけでなく、社会的な規範を守る 精神や思いやりの心などをはぐくむことは、子供たちが知・徳・体のバランスのとれた成長をしていく上で、 極めて有効である。そのためには、子供たちが主体的、継続的にスポーツ等の多様な活動を楽しめるように、 スポーツ活動を行う場である地域のスポーツ施設の整備充実を図るとともに、その運営・利用のネットワーク 化を進めていく必要がある。 また、これらの施設には、今後、単にスポーツをする場の提供だけではなく、優れた指導者による、少年スポ ーツ教室、親子スポーツ教室等の多様で魅力あるプログラムの積極的な提供が望まれる。このことは、スポー ツを通じて、異世代間のコミュニケーションを活発にするという意味でも、極めて意義があると考えられる。 さらに、今後は、子供たちが異年齢の人々と交流し、適切なリーダーから指導を受けられるようなスポーツ活 動の拠点や、これを支える広域的なスポーツセンター等を広く普及させ、新たなスポーツ環境を創造していく ことが必要と考える。 (b)活動の機会の充実 (地域ぐるみの活動の推進) これまでにも指摘したように、都市化・過疎化の進行や地域社会の連帯感の希薄化などから、地縁的な地域社 会の教育力の低下が指摘される中で、今日、地域社会の教育力の再生を促すことが極めて重要なことになって いる。 このため、地域の大人たちが率先してあいさつ運動、環境浄化活動、交通安全活動、防災活動などの地域ぐる みの啓発活動に取り組むことを大いに推奨したい。また、これらの活動を振興していく上でも、地域社会のア イデンティティーを確立していくことが重要であり、各地域に残る年中行事や祭り、伝統芸能の継承・復活な どを図っていくことは大変に意義のあることと考える。行政も、こうした活動への支援を積極的に行っていっ てほしい。地域を挙げてのこうした取組は、今日深刻化しているいじめの問題の解決にも資するものと考えら れる。 (ボランティア活動の推進) 近年、我が国でもボランティア活動への関心が急速な高まりを見せている。参加者は増加し、活動分野も、福 祉の領域のみならず、街づくり、国際協力、環境保護など幅広い分野にわたっている。ボランティア活動への 参加は、それぞれの自発性に基づくものであるだけに、こうした活動に参加することによって、高齢者をいた わる気持ちを培い、自分たちの街づくりを通して身近な社会にかかわることの大切さを学ぶことなどの教育的 意義は極めて大きい。さきの阪神・淡路大震災では多数の若者が救援活動に参加し、被害を受けた人々をいた わることや街を復興するということの重要性を強く実感したが、この体験は、極めて貴重なものと言わなけれ ばならない。 このようなボランティア活動の持つ意義を考えると、他者の存在を意識し、コミュニティーの一員であること を自覚し、お互いが支え合う社会の仕組みを考える中で自己を形成し、実際の活動を通じて自己実現を図って いくなど、青少年期におけるボランティア体験の教育的意義は特に大きい。子供たちの、社会性の不足が指摘 される今日、体験的な学習としてのボランティア活動に青少年が気軽に参加できる機会を提供することは急務 であると考える。 子供たちが、学校や地域社会でのそれぞれの役割に即した活動を通して、ボランティア活動を経験し、将来、 ボランティア活動を自然に行っていく契機としていってほしい。そして、「ボランティア活動は特別なことで なく、自分自身にとって身近なこと、必要なこと、大切なこと、だれにでも日常的にできることである」とい う認識が社会全体に広がることが望まれる。 このため、行政においては、ボランティア活動を実際に体験したり、活動の理念や必要な知識・技術等につい て学習する機会を様々な形で提供することが必要である。様々な民間団体などが、ボランティア活動の機会を 積極的に提供することも期待したい。学校も、その実態に応じてボランティア活動に取り組むことを望みたい。 その一つとして、例えば、PTAや地域の様々な民間団体と手を結んで、子供たちのためにボランティア活動 の機会を作っていくような試みもあってよいと考える。また、ボランティア活動全般が広く展開される環境を 作るため、ボランティア活動を求める側のニーズとボランティアの活動意欲を効果的に結びつけることができ るよう、情報提供やコーディネーターの養成などボランティア活動に取り組みやすく、かつ、続けていきやす い条件整備を図っていくことが急がれる。 (交流活動の推進) 今日の子供たちは、物質的な豊かさや便利さなど、恵まれた環境で育っている反面、様々な人々との交流が不 足し、そのことが、子供たちの人間関係を希薄化させていると言われている。 このような現状を改善するため、社会教育・文化・スポーツ施設や青少年団体等が中心となって、都市部と過 疎地域、農村と漁村など異なる地域間の交流、乳幼児や老人など異なる世代間の交流、障害者との交流、国際 交流など、様々な人々との多様な交流を積極的に推進する必要がある。 また、希薄化している今日の子供たちの人間関係の改善や自活力の向上を図るため、一定期間地域の身近な施 設から学校に通学する「合宿通学」などの実施も考えられてよいであろう。 (自然体験活動の推進) 子供たちに、自然の中における様々な生活体験や自然体験などの機会が不足している現状を考えると、農作業 体験、野外活動や環境保護活動など、子供たちに豊かな自然に触れさせ、自然に対する理解や愛情を育てるよ うな子供・親子向けの事業を充実させることは、今日極めて重要なことである。,活動の場としては、もちろん、 身近な日常生活圏での自然体験や生活体験も重要であるが、日常生活圏を離れての活動も子供たちに是非体験 させたいものである。特に、多感な子供時代に豊かな自然の中で長期間過ごす体験は極めて有意義と考えられ る。そこで、長期休業期間中などに、少年自然の家などの青少年教育施設やホームステイを活用して、子供た ちにそうした機会を与えることを提唱したい。 また、キャンプ、オリエンテーリング、サイクリング、ホステリング等の自然に触れ親しむアウトドアスポー ツの機会も、子供たちの体験活動として提供したい。 行政は、こうした体験活動を奨励する施策に積極的に取り組んでほしい。 (c)青少年団体等の活動の振興 子供たちが、自らの興味・関心等に基づき、自主的・主体的に様々な活動を行うことは極めて意義のあること である。このような子供たちの活動を支え、促していくのが青少年団体・スポーツ団体である。 青少年団体の活動は、子供たちに、各種の集団活動を通じて、社会性、協調性や積極性などを養おうとするも のであり、スポーツ団体の活動は、スポーツを通じて心身ともに健やかな青少年の育成に大きく寄与している。 一人一人の子供たちに[生きる力]をしっかりとはぐくんでいこうとするとき、これらの団体の活動の役割は ますます重要性を増している。行政は、これらの団体の魅力ある活動の情報提供や啓発活動を通じて、できる だけ多くの子供たちの参加を促進するほか、指導者の育成、有意義な活動に対する各種の支援など、青少年団 体やスポーツ団体の活動の一層の振興に努めていく必要がある。 (d)指導者の養成と確保 子供たちの地域社会における活動を充実するためには、地域社会や施設で子供たちの指導に当たったり、地域 社会の人々の自主的な取組を支援する者が養成・確保されなければならない。子供たちの地域社会における活 動が、子供たち自身が自主的・自発的に参加するものであることを考えると、その指導者は、専門的な知識や 指導技術に加え、青少年に慕われ、親しめるような優れた人間性を備えることが求められる。 現在、地域社会における活動の推進に携わる者としては、都道府県や市町村の社会教育主事や社会教育指導員、 体育指導委員、施設の専門的職員(青少年教育施設の専門職員、公民館の主事、図書館の司書、博物館の学芸 員、文化会館のアートマネージメント担当職員など)、青少年団体やスポーツ団体の指導者・育成者などがい る。 しかし、これらの指導者については、その数においても、また研修や学習の機会についても極めて少ないのが 実態である。例えば、地域社会における活動を含む社会教育全体の要となる社会教育主事についてみても、い まだに社会教育主事が設置されていない市町村があるなど、地域社会における教育を支える基盤は必ずしも十 分なものとは言えない。 今後、子供たちの地域社会における活動を充実させるため、これらの指導者に優れた人材を確保するとともに、 その資質の向上を図るための施策を一層充実させることが必要である。 (e)情報提供の充実 子供たちが様々な活動に参加しようとしても、あるいは施設等を利用して学習しようとしても、そうした学習 情報がなければ子供たちは参加できない。子供たちに様々な活動に参加することを促す上で、どのような活動 が、いつ、どこで行われているか等の具体的な情報を的確かつ効果的に提供する仕組みを整備することが必要 である。 このため、市町村教育委員会が中心となって地域社会における活動に関する各種の情報をデータベース化する とともに、学校や関係機関などとの情報通信ネットワークを形成して、子供たちに情報を十分に提供する体制 を整備することが急がれる。 その際は、社会教育・文化・スポーツ施設や関係機関、民間団体、地域のグループなどが実施する個々の活動 の場所や内容、プログラムなどに関する情報だけでなく、指導者やボランティアなど、地域社会における活動 を支援する人材に関する情報も積極的に提供することが重要である。 また、市町村教育委員会やPTAが地域社会における活動に関する情報資料を作成し、随時子供や家庭に配布 するほか、地域社会における活動に関する相談コーナー、情報コーナーの開設等による情報の提供や相談の実 施も効果的と考える。 (f)「第4の領域」の育成 地域社会における教育力の低下が指摘される中にあって、従来の地縁的な活動から目的指向的な活動へと人々 が参加意欲を移しつつある傾向がうかがえる。このような状況を踏まえ、これからの地域社会における教育は、 同じ目的や興味・関心に応じて、大人たちを結びつけ、そうした活動の中で子供たちを育てていくという、従 来の学校・家庭・地縁的な地域社会とは違う「第4の領域」とも言うべきものを育成していくことを提唱した い。 例えば、青少年団体では、地縁的なものよりも、最近ではむしろ、スポーツやキャンプ、ボランティアといっ た目的指向的なものの方が人気が高いと言われているが、これなどは、ここでいう「第4の領域」の一つの例 と言えよう。また、日常生活圏を離れて、豊かな自然の中で、青年の家、少年自然の家などの青少年教育施設 を活用した活動や、民間教育事業者などが提供する体験学習のプログラムを利用した活動も、「第4の領域」 の例と考えられ、今後ニーズが高まっていくものと考えられる。 行政としては、こうした状況を踏まえつつ、目的指向的な様々な団体・サークルの育成や、日常生活圏を離れ た広域的な活動の場や機会の充実、効果的な情報提供活動、民間教育事業者との連携などを通じて、「第4の 領域」の育成に積極的に取り組んでいってほしい。 [3]地域社会における教育を充実させるための体制の整備 (a)市町村教育委員会の役割の重要性 子供にとって、地域社会の活動としては、日常の生活圏での活動が最も重要である。その意味で、子供の地域 社会における活動を充実するためには、地域における教育行政に関して直接の責任を負い、子供に最も身近な 位置にある市町村教育委員会の役割がますます重要なものとなってくると言わなければならない。 現在も、市町村教育委員会は、地域社会における活動を充実させるため、活動の場や機会の提供をはじめとし て、青少年団体の支援、指導者の養成や情報提供など様々な施策に取り組んでいるが、人々が、従来の地縁的 な活動から目的指向的な活動へと参加意欲を移しつつある傾向を考えると、今後は、市町村長部局とも連携し つつ、情報通信ネットワークを活用した情報提供、指導者の人材バンクの形成や派遣、様々な団体とのネット ワークの形成など、地域社会での活動に関する幅広い連絡・調整・企画機能を一層充実していくことが必要と 考える。 (b)地域教育連絡協議会や地域教育活性化センターの設置 地域社会における教育の充実を地域ぐるみで行うための一つの方策として、地域の人々の意向を反映しつつ、 地域社会における学校外の様々な活動の充実について連絡・協議を行い、ネットワークづくりを進めるため、 市町村教育委員会等が核となり、PTA、青少年団体、地元企業、地域の様々な機関・団体や学校等の参加を 得て、地域教育連絡協議会を設けることを提唱したい。 この地域教育連絡協議会の設置は、地域社会における教育の充実について関係者の参加意識を高め、保護者や 地域の人々が、行政や他人任せではなく、自分たち自身の問題としてこれに取り組んでいく大きな契機になる ものと考える。 なお、市町村によっては、既に、子供たちの健全育成や地域社会における活動の充実をねらいとする各種の協 議会が設けられ、成果をあげているところも多い。こうした既存の協議会を、地域の実態に応じ、地域教育連 絡協議会として活用することも考えられる。 また、関係者間の連絡・協議を行うだけでなく、自ら地域社会における活動に関する事業を行ったり、各種の 情報提供や相談活動、指導者やボランティアの登録、紹介などを行うため、地域の実態に応じ、行政組織の一 部又は公益法人などとして、地域教育活性化センターを設置することも考えられる。 (c)国・都道府県の支援、民間教育事業者の取組 以上、様々な施策について述べてきたが、これらの施策は、国、都道府県、市町村の連携・協力の下に、体系 的に進められなければならない。 地域社会における教育は、各地域の実態を踏まえ、それぞれの地域の特色を生かして展開されることが極めて 重要である。市町村が施策を立案するに当たっては、地域の人々のニーズを十分反映したものであることが望 まれるし、国・都道府県の市町村に対する支援は、できる限り地域のニーズを踏まえた柔軟なものであること が必要である。 また、従来、これらの施策を進めるに当たっては、民間教育事業者の取組を十分視野に入れてこなかったきら いがある。今後は、民間教育事業者による、子供たちを対象とした、文化・スポーツ活動や自然体験などの体 験活動等の取組も期待し、これらとの適切な連携を図っていくことが必要である。 これらの施策や地域社会における様々な取組があいまって、子供たちの地域社会での多様な活動の場と機会が 豊かになっていくことを期待したい。 第4章,学校・家庭・地域社会の連携 第1部(3)(a)で述べたとおり、子供たちの教育は、単に学校だけでなく、学校・家庭・地域社会が、それぞれ 適切な役割分担を果たしつつ、相互に連携して行われることが重要である。 このような観点から、学校・家庭・地域社会の連携に関し、特に配慮しなければならない点について、幾つか の提言を行うこととしたい。 (開かれた学校) 学校が社会に対して閉鎖的であるという指摘はしばしば耳にするところである。学校や地域によって事情は異 なり、この指摘の当否を一律に断定すべきではないが、子供の育成は学校・家庭・地域社会との連携・協力な しにはなしえないとすれば、これからの学校が、社会に対して「開かれた学校」となり、家庭や地域社会に対 して積極的に働きかけを行い、家庭や地域社会とともに子供たちを育てていくという視点に立った学校運営を 心がけることは極めて重要なことと言わなければならない。 そこで、まず、学校は、自らをできるだけ開かれたものとし、かつ地域コミュニティーにおけるその役割を適 切に果たすため、保護者や地域の人々に、自らの考えや教育活動の現状について率直に語るとともに、保護者 や地域の人々、関係機関の意見を十分に聞くなどの努力を払う必要があると考える。特に、いじめ・登校拒否 の問題などでの学校の対応ぶりを見ていると、学校内での出来事や学校としての取組などをできるだけ外部に 漏らすまいとする傾向が強いように感じられることがある。学校は、家庭や地域社会との連携・協力に積極的 であってほしい。 また、学校がその教育活動を展開するに当たっては、もっと地域の教育力を生かしたり、家庭や地域社会の支 援を受けることに積極的であってほしいと考える。例えば、地域の人々を非常勤講師として採用したり、ある いは、地域の人々や保護者に学校ボランティアとして協力してもらうなどの努力を一層すべきである。 さらに、学校は、地域社会の子供や大人に対する学校施設の開放や学習機会の提供などを積極的に行い、地域 社会の拠点としての様々な活動に取り組む必要がある。 そのために、これからの学校施設については、学校教育施設としての機能を十分確保することはもちろん、家 庭や地域社会とともに子供たちを育てる場、地域の人々の学習・交流の場、地域コミュニティーの拠点として、 それにふさわしい整備を推進していく必要がある。例えば、校庭や屋内運動場だけでなく、特別教室等につい ても地域の人々や保護者への開放を前提とした整備を進めるべきであり、地域の人々や保護者の利用しやすい スペースにも配慮していくべきである。 また、第3章(2)[2],(a)で述べた点に留意しつつ、学校開放にさらに取り組むほか、余裕教室について、学校 と家庭・地域との連携や、地域の学習・交流のためのスペース等として活用を図ることも積極的に考えていく べきである。さらに、学校と社会教育施設等との複合化や隣接設置等についても、教育的配慮をしつつ、学校 や地域の実態に応じて検討していくべきである。 このような取組を通じて、学校が家庭や地域社会にとって垣根の低い、開かれたものとなることは、学校の教 育活動をより多彩で活発なものにするとともに、家庭や地域の人々の学校に対する理解をより深めることに大 いに資するものと考える。 (学校のスリム化) 学校・家庭・地域社会の連携と適切な役割分担を進めていく中で、学校がその本来の役割をより有効に果たす とともに、学校・家庭・地域社会における教育のバランスをよりよくしていくということは極めて大切なこと であり、こうした観点から、学校が今行っている教育活動についても常に見直しを行い、改めるべき点は改め ていく必要がある。こうした見直しを行うに当たっては、我が国の子供たちの生活において、時間的にも心理 的にも学校の占める比重が家庭や地域社会に比して高く、そのことが子供たちに学校外での生活体験や自然体 験の機会を少なくしているとも考えられる現状を踏まえることが必要である。 このような考えの下に、二点指摘しておきたい。その一つは、現在、家庭や地域によりその実態は異なるもの の、日常の生活におけるしつけ、学校外での巡回補導指導など、本来家庭や地域社会で担うべきであり、むし ろ家庭や地域社会で担った方がよりよい効果が得られるものを学校が担っている現状があるということである。 これらについては、家庭や地域社会での条件整備の状況も勘案しつつ、家庭や地域社会が積極的に役割を担っ ていくことを促していくことが必要であると考える。 二つ目として、部活動の問題がある。部活動は、教育活動の一環として、学級や学年を離れて子供たちが自発 的・自主的に活動を組織し展開されるものであり、子供の体と心の発達や仲間づくり、教科を離れた教員との 触れ合いの場として意義を有しているものである。しかしながら、学校が全ての子供に対して部活動への参加 を義務づけ画一的に活動を強制したり、それぞれの部において、勝利至上主義的な考え方から休日もほとんど なく長時間にわたる活動を子供たちに強制するような一部の在り方は改善を図っていく必要がある。また、地 域社会における条件整備を進めつつ、指導に際して地域の人々の協力を得るなど地域の教育力の活用を図った り、地域において活発な文化・スポーツ活動が行われており学校に指導者がいない場合など、地域社会にゆだ ねることが適切かつ可能なものはゆだねていくことも必要であると考える。 このほか、教育内容の厳選の問題については、すでに第1章(1)において述べたところであるが、学校は、それ ぞれの学校の教育課程について絶えず見直しを行い、改めるべき点は改め、指導内容の精選を不断に進めてい く必要がある。現在、学校が行っている様々な行事や会議についても、学校がその本来の役割をより有効に果 たすために、その教育的意義を問い直し、絶えずその実施方法の工夫を含め、精選を図っていくべきであると 考える。また、行政機関や地域の関係団体は、学校に様々な依頼をするときは、その必要性を十分吟味し、学 校にとって過重な負担にならないよう配慮する必要がある。 (学校外活動の評価) 子供たちの学校外活動を活性化する観点から、子供たちが、社会教育団体や青少年団体における活動、ボラン ティア活動、文化・スポーツ活動などに積極的に取り組んだ場合、これらを学校においても奨励する意味で評 価する方法などが検討されてよいと考える。しかし、学校外の活動は、言うまでもなく、子供たちの自主性・ 自発性に基づいて行われるものであり、子供たちのそうした積極的な意欲や態度を励ますという視点を忘れて はならない。 (PTA活動の活性化への期待) PTAは、学校と家庭が相互の教育について理解を深めあい、その充実に努めるとともに、地域における教育 環境の改善・充実等を図るために保護者と教員の協力の下に組織され、子供たちの健やかな成長を願いつつ、 これまで地域の実態に応じ、様々な活動を展開してきた。 家庭・地域社会それぞれについて、子供たちを取り巻く環境が著しく変化し、家庭や地域社会の教育力の低下 が指摘されている今日、学校と家庭、さらには、地域社会を結ぶ懸け橋としてのPTA活動への期待は、ます ます高いものとなってきている。しかし、率直に言って、現在のPTAの活動は、従来から父親の参加を得る ことが難しかったことに加えて、女性の社会進出の進展等を背景として、PTAによっては、活動の展開や充 実が困難になっているのが現状と言わなければならない。 PTA活動の重要性と今日の現状を踏まえ、PTAに対しては、その会合を夜間や休日に開催するなど、保護 者等が一層参加しやすい環境づくりに努めるとともに、学校のOB、OGや地域の有志等の参加や協力も得な がら、家庭と学校とが連携協力して行う活動、家庭教育に関する学習活動、地域の教育環境の改善のための取 組などを含め、その活動の充実を図っていくことを期待したい。 また、教員においては、従来に増してPTA活動についての理解を深め、積極的にその活動に参加することが 望まれる。 あわせて、行政に対しては、PTAの今後の活動の充実のため、積極的な支援を進めていくことを求めたい。 (教育委員会の活性化) これまで述べてきたとおり、これからの教育では、学校・家庭・地域社会全体を通して行われるとの視点が重 要である。従来、学校教育中心の行政になりがちであった教育委員会についても、学校のみならず、家庭や地 域社会における教育に関する条件の整備・充実や、これら相互の連携を推進することが大きな役割となってい くものと考えられる。 また、生涯学習社会への移行が求められている現在、学校以外の学習機会の提供や場の整備など、広く社会教 育、文化、スポーツ等の振興のために教育委員会の果たす役割は今後ますます増大していくであろう。そして、 このような分野の充実は、家庭や地域社会における教育力を充実させ、学校も含め、地域全体で子供の教育を 担うという観点からも重要であると考える。また、このような分野については、教育委員会のみならず、首長 部局においても関連する施策を行う場合が増えており、両者の協力が不可欠となってきている。 このような状況を踏まえ、教育委員会の一層の充実を図る必要があると考えられるが、そのためには、例えば、 教育委員会において中核的役割を果たす教育長に、教育に関する造詣が深く、また、行政的な識見も有する、 より適切な人材を継続的に確保するための方策や、必ずしも十分な体制整備ができていない小規模市町村教育 委員会の事務処理体制の充実方策、教育委員会と首長部局との一層の連携を推進するための方策等について検 討することが必要と考える。 (マスメディアや企業への期待) 子供たちが健やかに成長していく上で、学校・家庭・地域社会の役割はもとより重要であるが、子供たちは社 会全体で育てていくものであり、社会を構成するマスメディアや企業が子供の育成に積極的に協力していくこ とを期待したい。 マスメディアについては、子供たちの生活に占める比重の大きさから言って、その人間形成に与えている影響 は計り知れない。マスメディアにおいては、そのような現状を認識し、子供たちに豊かな人間性を育成すると いう方向に沿っての取組を大いに期待するところであり、いやしくも不適切な影響を与えないような配慮を要 望しておきたい。 企業に対しては、特に、労働時間の短縮、フレックスタイム制の確立、育児休暇や年次休暇の取得促進、授業 参観休暇制度の創設など、社員が家庭教育や地域活動に一層参画しやすい環境づくりに努めることを要望して おきたい。また、子供たちを対象とした職場参観や技術体験会などの体験学習教室を開催したり、学校に協力 して特別非常勤講師等として人材を派遣するなど、経営資源を生かした貢献も期待したい。 第5章,完全学校週5日制の実施について (1)今後における教育の在り方と学校週5日制の目指すもの 我々は、以上のような第1部及び第2部各章での検討を踏まえて、学校週5日制の今後の在り方について検討 した。 学校週5日制については、平成4年9月に月1回の学校週5日制が導入され、平成7年4月に月2回の学校週 5日制が実施に移されるという形で段階的に進められ、これまでおおむね順調に実施されてきた。これらの実 施の経過を通じ、学校での取組や子供の学校外活動の場や機会などの条件整備の進展とともに、これまでのと ころ全体として学校週5日制に対する保護者や国民の理解は深められてきたと考えている。 今後の教育の在り方について、我々は、これまで述べてきたとおり、子供たちや社会全体に[ゆとり]を確保 する中で、学校・家庭・地域社会が相互に連携しつつ、子供たちに[生きる力]をはぐくむということを基本 にして展開されていくべきだと考える。 [生きる力]は、単に学校だけで育成されるものでなく、学校・家庭・地域社会におけるバランスのとれた教 育を通してはぐくまれる。特に、家庭や地域社会における豊富な生活体験、社会体験や自然体験は重要である。 そうした点を踏まえて、今日の子供たちの生活の在り方を省みると、子供たちは全体として[ゆとり]のない 忙しい生活を送っており、様々な体験活動の機会も不足し、主体的に活動したり、自分を見つめ、思索すると いった時間も少なくなっているというのが現状である。こうした現状を改善する意味で、家庭や地域社会での 生活時間の比重を増やし、子供たちが主体的に使える自分の時間を増やして[ゆとり]を確保することは、今 日、子供たちにとって極めて重要なことと考える。 これらを言い換えれば、子供にとっての学校・家庭・地域社会のバランスを改善してよりよいものとする必要 があるということである。 そこで、学校週5日制の今後の在り方を考えてみると、学校週5日制は、こうした子供たちの生活の在り方や 学習の環境を変え、これまで縷々述べてきたような今後の教育のあるべき姿を実現する有効な方途であり、そ の目指すものは、今後の教育の在り方と軌を一にしていると考えられる。このような考えの下に我々は、完全 学校週5日制の実施は、教育改革の一環であり、今後の望ましい教育を実現していくきっかけとなるものとし て積極的にとらえる観点から、後述する様々な条件整備を図りながら、21世紀初頭を目途にその実施を目指す べきであると考える。 もちろん、完全学校週5日制の実施は、社会の隅々にまで定着している学校教育の枠組みを変更するものであ り、その実施に当たっては、その意義等について、家庭や地域の人々の十分な理解を得なければならない。 また、第1章(1),で述べた方向に沿って、教育内容を厳選するなど学習指導要領を改訂する際には、完全学校 週5日制の円滑な実施に資するよう、全体として授業時間数の縮減を図ることも必要と考える。 なお、教育内容を厳選し、全体として授業時間数の縮減を図った場合、学力水準が低下するのではないかとい った懸念がある。確かに、学力を単に知識の量という点でとらえるとすれば学力水準は落ちるという懸念はあ るかも知れない。しかし、我々は、学力の評価は、単なる知識の量の多少のみで行うべきでなく、これまで述 べてきたような変化の激しい社会を[生きる力]を身に付けているかどうかによってとらえるべきであると考 える。そして、我々は、こうした力は完全学校週5日制の下で、学校での取組はもとより、家庭や地域社会に おける取組とあいまって、十分に養うことができると考える。 以上のほか、完全学校週5日制のねらいを実現するためには、その実施に当たって特に、以下のような点に留 意する必要があると考えている。 (2)完全学校週5日制の実施に当たって特に留意すべき事項 [1]学校外活動の充実と家庭や地域社会の教育力の充実 学校週5日制の趣旨は、第2章や第3章で述べた家庭や地域社会の教育力の充実とあいまってはじめてその趣 旨が生かされるものであり、これらの章で述べた施策の実行を強く期待する。特に、完全学校週5日制の実施 に当たっては、市町村教育委員会が中心となって、地域教育連絡協議会や地域教育活性化センターを設置する ことなどにより、地域における様々な団体などと連携し、土曜日や日曜日における活動の場や機会の提供、情 報提供など多様な学校外活動のプログラムを提供する体制を整えていく必要がある。その際、国や都道府県は、 全国的あるいは広域的な見地からの取組を進めることはもとより、市町村に対し、積極的な支援を行わなけれ ばならない。こうした環境整備は、既に平成4年9月から月1回の学校週5日制が実施されて以来、着実に進 められてきているところであるが、今後、一層取組を強化すべきである。 特に、幼稚園や小学校低学年で土曜日に保護者が家庭にいない子供や障害のある子供等に対して、遊びや文化 ・スポーツ活動などの学校外活動の場や機会、指導者の確保等により、これらの子供たちが安心して過ごせる よう、特段の配慮が必要である。 これらの施策を体系的に推進し、かつ、実効あるものとするため、今後、完全学校週5日制の実施に向け、文 部省を中心に、関係省庁とも連携し、子供に対して多様な学校外活動を提供する体制整備についての指針(家 庭や地域社会の教育力の充実策、保護者が家庭にいない子供や障害のある子供等への配慮を含む。)を作成し、 それらを参考としつつ、市町村教育委員会が関係部局や都道府県教育委員会とも連携し、実施プランを作成し、 実行していく必要がある。 [2]過度の受験競争の緩和と子供の[ゆとり]の確保 学校週5日制のねらいである、子供たちに[ゆとり]を確保し、[生きる力]をはぐくんでいく上で妨げの一 つとなるものとして、過度の受験競争の問題がある。 これについては、第1部(4),で述べた取組を進めるとともに、さらに、本審議会としても検討を行い、必要な 提言を行うこととしている。 また、月2回の学校週5日制を導入した段階では、休業土曜日について、通塾率について大きな変化はないも のの、完全学校週5日制を導入する際には、塾通いが増加するのではないかとの懸念がある。学校週5日制は、 子供たちの家庭や地域社会での生活時間を増し、子供に[ゆとり]を確保し、家庭や地域社会での豊富な生活 体験・社会体験・自然体験の機会を与えようとするものであるが、過度の塾通いはその機会を失わせることと なるのである。子供を塾に通わせるかどうかは、もとより、それぞれの家庭が決めることである。その意味で 我々は、完全学校週5日制の実施に当たっては、一人一人の親が、その趣旨を理解し、自らの子供にとって真 に必要な教育とは何かを真剣に考えることを、あえて強く望んでおきたい。 塾関係者に対しては、完全学校週5日制の実施に当たって、その趣旨を十分に理解して、節度ある行動をとる よう強く望んでおきたい。 また、部活動について、休業土曜日などを使って行き過ぎた活動が行われる懸念も指摘されている。学校週5 日制の趣旨を踏まえ、子供たちの[ゆとり]が確保できるよう適切な指導を望みたい。 [3]完全学校週5日制の実施方法 上述した学校週5日制の趣旨は、国公私立の各学校種を通じて異なるものでなく、全国的に統一して実施する ことが望ましい。 また、これまで段階的に学校週5日制が実施されてきた中で、多くの私立学校で導入が進められているものの 、いまだに導入の検討すら行われていない学校もある。特に、完全学校週5日制の導入に当たって、学習指導 要領を改訂することを踏まえると、国公立学校と歩調を合わせた導入を各私立学校に対し、強く望んでおきた い。 第3部,国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方 第1章,社会の変化に対応する教育の在り方 これからの教育の在り方については、既に第1部(3)で述べたように、我々は、これからの社会の変化は、これ まで我々が経験したことのない速さで、かつ大きなものとなるとの認識に立って、豊かな人間性など「時代を 超えて変わらない価値のあるもの」(不易)を大切にしつつ、「時代の変化とともに変えていく必要があるも の」(流行)に的確かつ迅速に対応していくという理念の下に教育を進めていくことが重要であると考える。 国際化、情報化、科学技術の発展、環境の問題などのそれぞれに対する教育の在り方については、第2章以下 で述べることとするが、これからの社会の変化に対応する教育の在り方の基本は、第1部で述べた、[生きる 力]の育成を目指して教育を進めていくことが重要であるということである。 すなわち、既に述べたように、これからの社会は、変化の激しい、先行き不透明な、厳しい時代であること、 そのような社会において、子供たちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自 ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律し つつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性であり、そして、また、たくま しく生きていくための健康や体力である、と考えるのである。 社会の変化に対応する教育の在り方として、我々が次に指摘しておきたいことは、国際化や情報化などの社会 の変化に対応し、これらの新たな社会的要請に対応する教育を行っていくことは重要なことではあるが、初等 中等教育段階は、これらの変化に主体的に対応できる資質や能力の基礎を、子供たちの発達段階を十分に考慮 に入れて育成する必要があるということである。 そのためには、教育内容を厳選し、[ゆとり]のある教育課程を編成するとともに、指導方法の改善に努め、 学校教育の在り方を、これまでの知識を教え込むことに偏りがちであった教育から、子供たち一人一人の個性 を尊重しつつ、上述の[生きる力]をはぐくむことを重視した教育へと、その基調を転換させていくことが必 要である。 第2部第1章(1)[2]でも指摘したように、学校教育に新しいものを取り入れる場合には、子供たちの発達段階 を十分に踏まえ、基礎・基本に絞り込むとともに、社会の変化によって必要性が相対的に低下したものは、思 い切って厳選する必要がある。学校教育は限られた時間の中で展開されるものであることを忘れてはならない。 また、指導の方法についても、子供たちの、感動を覚え、疑問を感じ、推論するなどの過程を大切にしていく 必要がある。どの教科についても、ただたくさんのことを覚え込むことや、与えられた問題をできるだけ多く 解くことに終始する学習では、学ぶことの面白さは分からないし、子供たちに、学習への興味や関心はわいて こない。子供たちが試行錯誤を繰り返し、何度も失敗を重ねた末に、初めて味わうことのできる「発見する喜 び」や「創る喜び」などを体験させることが大切なのである。 そのようなことからも、次に指摘したいことは、社会の変化に対応する教育を適切に行っていくためには、各 学校において、各教科、道徳、特別活動などについて相互に十分に連携を図ることや、カリキュラム全体を工 夫しながら教育活動を進めることが大切であるということである。例えば、インターネット等の国際的な情報 通信ネットワークを活用した教育活動を考えてみると、それは、単に情報に関する学習に資するというだけで なく、英語が使用言語であれば英語のコミュニケーション能力の向上に資するものでもあるし、また相手との 情報交換等を通して、相手の国の文化や歴史などの学習にも資することとなる。こうした活動は、外国語の時 間に行ったり、社会科の時間に行うことも考えられ、狭く情報の教育としてのみとらえる必要はない。関連す る教科などが十分に連携・協力しながら、こうした教育活動を展開していくということが重要なのである。 このような工夫の下に教育活動が展開されるとすれば、子供たちは、情報、外国語、国際理解などを有機的に 関連付けて学習できることとなり、その学習も、一層多彩で有効なものになっていくと思われる。 同様な学習の例は他にも様々に考えられるが、いずれにせよ、教科間の連携・協力、さらには、教科の枠を越 えた横断的・総合的な教育活動の展開が、必要かつ有効であると考えられる。 また、社会の変化に対応する教育を充実したものとするためには、単に学校だけでなく、学校・家庭・地域社 会が相互に連携し、それぞれが適切に役割分担を果たしながら、全体として教育が行われるということが重要 である。特に、子供たちの身近なところに、様々な学習の機会があって、子供たちが学校での学習を基礎に、 自由な発想でそれを発展させ得るような学習環境を整えることは極めて大切なことである。そのためにも、社 会教育施設の整備や社会教育関係団体の活動などの一層の充実が求められるところである。また、社会の変化 に対応した教育をより豊かに、多彩に行っていくためには、学校における教育活動においても、こうした地域 の施設や団体の活動との連携をさらに積極的に図っていく必要があると考える。 我々は、社会の変化に対応する教育を考えるに当たっては、以上のような点が重要と考えた。 このような考えを基本に置きつつ、社会の変化の中でも特に教育に大きな影響を与えると考えられる、国際化、 情報化、科学技術の発展、環境の問題を取り上げて、これらに対応する教育の在り方について、以下に述べる こととする。これらを含め、全体として教育活動を展開していく場合には、学校や地域の実態、子供たちの発 達段階等を踏まえるとともに、第2部第1章でも指摘したとおり、教育内容を厳選し、子供たちが自ら学び、 考えることの大切さを忘れてはならない。また、国際化、情報化、科学技術の発展、環境の問題と、それぞれ に対応する教育の在り方を個別に述べているが、言うまでもなく、これらの変化は、相互に密接に関連してお り、これらに対応する教育の在り方について考えるに当たっても、相互の関連を十分踏まえることが必要であ る。 第2章,国際化と教育 [1],国際化と教育 冷戦が終焉し、交通手段の発達や情報化が進む中で、経済、社会、文化等の様々な面で国際交流が進展し、国 際的な相互依存関係はますます深まっている。そのような状況の下で、経済面では、東アジアの諸国が急速に 成長を遂げつつあり、さらには、我が国や欧米諸国を含めて、世界的規模で競争が激化し、その結果、種々の 摩擦も生じている。地域レベルの紛争もやむことがない。また、地球環境問題、エネルギー問題、人口問題、 難民問題など地球規模の問題が深刻化しつつあり、これらの問題の解決に当たっては、国際的な協調が不可欠 となっている。こうした国際関係の緊密化や複雑化などを背景にして、国際化はさらに進展し、今後ますます 加速していくものと思われる。 このように国際化が急速に進展する中で、絶えず国際社会に生きているという広い視野を持つとともに、国を 越えて相互に理解し合うことは、ますます重要な課題となりつつある。加えて、経済大国となった我が国は、 地球環境問題への対応や科学技術や文化の面などで、今後一層積極的に国際社会に対して貢献し、世界の安定 と発展に寄与していくことが必要である。 いずれにせよ、国際化の進展は、人と人との相互理解・相互交流が基本となるものであり、その意味で、教育 の果たす役割は、ますます重要なものとなると言わなければならない。 このような国際化の状況に対応し、我々は特に次のような点に留意して、教育を進めていく必要があると考え た。 (a),広い視野を持ち、異文化を理解するとともに、これを尊重する態度や異なる文化を持つ人々と共に生きて いく資質や能力の育成を図ること。 (b),国際理解のためにも、日本人として、また、個人としての自己の確立を図ること。 (c),国際社会において、相手の立場を尊重しつつ、自分の考えや意思を表現できる基礎的な力を育成する観点 から、外国語能力の基礎や表現力等のコミュニケーション能力の育成を図ること。 [2],国際理解教育の充実 国際化が進展する中にあって、広い視野とともに、異文化に対する理解や、異なる文化を持つ人々と共に協調 して生きていく態度などを育成することは、子供たちにとって極めて重要なことである。こうした教育は、既 にこれまでにも、各学校において、各教科、道徳、特別活動などの指導において、あるいは学校独自の行事な どを通して、様々な形で取り組まれてきたところである。しかし、相互依存の関係が深まるこれからの国際社 会を考えるとき、このような教育はますます重要なものとなってきており、これからの学校教育においては、 国際理解教育の推進についての明確な理念を持ってこの面での教育を充実させていく必要があると考える。 国際理解教育を進めていくに当たって、特に重要と考えられることは、多様な異文化の生活・習慣・価値観な どについて、「どちらが正しく、どちらが誤っている」ということではなく、「違い」を「違い」として認識 していく態度や相互に共通している点を見つけていく態度、相互の歴史的伝統・多元的な価値観を尊重し合う 態度などを育成していくことである。 一つのものの見方や考え方にとらわれて、異なる文化・生活・習慣などを断定的に評価するようなことは、子 供たちをいたずらに偏見や誤った理解に陥らせる基になりかねず、決してあってはならないことである。 また、国際理解教育を進めていくに当たっては、自分自身が何ものであるのかを知ること、すなわち自分自身 の座標軸を明確に持つことが極めて重要である。このことなくしては、相手からも理解されず、また、相手を 理解することもできないと言わなければならない。日本人として、また、個人としての自己の確立があいまい で、自らのよって立つ位置が不明確なままでは、国際的にも評価されないのである。 こうしたことを考えると、広い視野を持ち、異文化を理解し、これを尊重する態度や異なる文化を持った人々 と共に生きていく態度などを育成するためには、子供たちに我が国の歴史や伝統文化などについての理解を深 めさせることが極めて重要なことになる。先人達によってどのような歴史が展開され、どのようにして現代の 社会が築かれてきたか、また、先達の努力によって、どのような芸術や文学などが創造され、我々の社会に継 承され、我々の生活を豊かなものにしてくれているか等について、広く世界の歴史を背景に、子供たちにしっ かりと理解させることは、我々大人の極めて重要な責務なのである。そしてまた、日本人としての自己の確立 の前提には、まず、子供たち一人一人の個の確立がなければならないのであり、その意味で、国際理解教育の 推進は、一人一人の子供たちの個の確立ということと同心円をなしていると言うことができる。 また、我が国は、あらゆる面において、これまでとかく欧米先進諸国に目を向けがちであった。しかし、今日、 様々な面でアジア諸国やオセアニア諸国などとの交流が深まる中、地理的にもアジアにあり、アジアを離れて は存在し得ない我が国としては、今後は、アジア諸国やオセアニア諸国など様々な国々にも一層目を向けてい く必要があり、このことは、国際理解教育を進めるに当たっても、十分に踏まえなければならない視点である と思われる。 国際理解教育は、各教科、道徳、特別活動などのいずれを問わず推進されるべきものであり、各学校ごとに、 理念、各教育活動の役割やねらいについて、全教員が共通理解を持って取り組むことが重要である。 また、国際理解教育が、上述のようなねらいを持ったものであることを考えると、この教育を実りのあるもの にするためには、単に知識理解にとどめることなく、体験的な学習や課題学習などをふんだんに取り入れて、 実践的な態度や資質、能力を育成していく必要がある。そのためには、国際的な情報通信ネットワークの活用 をはじめ、様々な機器や教材の活用のほか、これらの教育にふさわしい人材を学校外から積極的に招くことな ども考えられてよいであろう。指導の在り方としては、国際理解教育が総合的な教育活動であることを踏まえ て、第2部第1章(1),[5],で述べた「総合的な学習の時間」を活用した取組も考えられよう。 現在、各学校では、外国への修学旅行、姉妹校提携、留学、生徒の外国への研修旅行、外国人留学生の受入れ など、多様な形態で国際交流活動が行われているが、国際理解教育を推進する観点からも、今後、学校段階に 応じ、また、各学校の実態を踏まえながら、こうした活動が行われることは意義のあることであり、このよう な取組を支援していく必要があると考える。また、身近に国際交流を行っていくという意味で、学校や地域の 実態に応じ、地域で行われる様々な国際交流活動に参加するとともに、日本の大学等に在学する外国人留学生、 インターナショナルスクールの子供たちなどとの交流を進めていくことや、インターネットなどの情報通信ネ ットワークを活用して、外国の学校などとの国際交流を進めていくことは意義のあることと考える。 また、こうした学校での取組のほか、地域において、青少年団体等が実施する国際交流事業に参加することも、 国際理解を深め、国際性を養うという点で意義があり、このような取組を支援していくことも有効である。 国際理解教育を進めていく上で、教員の果たす役割が重要であることは論を待たない。このため、教員養成に ついては、教員養成課程における国際理解に関するカリキュラムの充実を図るとともに、教員の研修について は、各種の研修における国際理解に関するプログラムの充実や教員の海外派遣の拡充を図る必要がある。あわ せて、学校の教育活動の指導・助言に当たる教育委員会の職員についても、海外研修の機会を拡充すべきであ ろう。 また、現在、国において行われている「外国教育施設日本語指導教員派遣事業(REXプログラム)」(国内 の中・高等学校の教員を海外の中等教育施設へ派遣し、日本語教育等に従事させる事業)を拡充するとともに、 この派遣事業や「在外教育施設派遣事業」(日本人学校等へ国内の教員を派遣する事業)などに参加し、海外 において豊富な経験を積んできた教員などを、国際理解教育に積極的に活用していくことも必要なことと考え る。 [3],外国語教育の改善 (中学校・高等学校における外国語教育の改善) 今後の国際化の進展を考えると、相手の立場を尊重しつつ、自分の考えや意見を表現し、相互理解を深めてい く必要性は、これから一層強まっていくものと考えられる。特に我が国にとって、今後、国際交流、さらには 国際貢献を積極的に行っていく上で、その必要性は極めて高く、その手段としての外国語の重要性はますます 高まっていくであろう。こうした観点から、中学校・高等学校における外国語教育については、これまで学習 指導要領の改訂のたびに「コミュニケーションの手段」としての外国語という観点から改善が図られてきたと ころであるが、リスニングやスピーキングなどのコミュニケーション能力の育成をさらに重視する方向で改善 を図っていく必要がある。しかし、その改善の実をあげるためには、カリキュラムの改善だけでなく、指導方 法の改善、教員の指導力の向上、入学者選抜の在り方の改善など、様々な取組を行っていかなければならない。 指導方法の改善に関しては、ティーム・ティーチング、グループ学習、小人数学習や個別学習など個に応じた 指導の一層の充実を図っていくことが必要である。そのためには、教員配置の改善を一層進めるとともに、L Lやオーディオ・ビジュアル機器等の整備など、施設・設備面の改善が大切であるし、また、インターネット などを活用した指導方法の開発等も重要なことと考えられる。 教員の指導力の向上に関しては、養成、採用、研修の各段階において改善を図っていかなければならない。外 国語担当教員の養成については、カリキュラムを一層改善するとともに、海外での外国語学習経験の重要性に かんがみ、教員養成課程の学生のための各種留学制度を一層充実させる必要がある。 外国語担当教員の採用に当たっては、外国語によるコミュニケーション能力に関する評価を一層重視するとと もに、採用後は、海外研修を充実し、できるだけ多くの外国語担当教員が海外での研修の機会を持てるように することが望まれる。 また、コミュニケーション能力を育成するための指導体制を充実させる観点から、現在、我が国の外国語教育 の改善や国際理解教育の充実に成果をあげている外国語指導助手(ALT)の招致人数の拡大や多様な国から の招致を図るとともに、外国人留学生や海外生活経験者などの積極的な活用も検討されるべきである。 我が国の外国語教育、とりわけコミュニケーション能力の育成を重視した外国語教育の改善について考えると き、大学・高等学校の入学者選抜の在り方も視野に入れなければならない。近年、リスニング試験の導入など いろいろな工夫・改善がなされてきているが、コミュニケーション能力の育成という観点に立って、その能力 を適切に評価するよう、選抜方法の一層の改善を図っていく必要がある。 また、各学校が、生徒や学校の実態を踏まえて、創意工夫を生かしつつ柔軟に外国語教育を進めていくことが 必要である。このため、中学校においては、外国語の授業時数の選択幅の拡大や授業時間の設定の仕方に様々 な工夫ができるよう、教育課程の弾力化を図るとともに、高等学校においては、英語検定等の技能審査の成果 や専修学校での学習を単位認定する制度を拡充し、それらの一層の活用を図るなどの改善を図っていくべきで あると考える。 中学校・高等学校の外国語教育は、現在、圧倒的に英語教育となっているが、これからの国際化の進展を考え るとき、生徒が様々な言語に触れることは極めて意義のあることであり、今後は学校の実態や生徒の興味・関 心等に応じて、多くの外国語に触れることができるような配慮をしていくことも必要であろう。 なお、外国語教育の改善に当たっては、その基礎として、言語能力を適切に身に付けていることが必要であり、 その意味で、国語教育の重要性を再認識する必要があることを指摘しておきたい。 (小学校における外国語教育の扱い) 小学校段階において、外国語教育にどのように取り組むかは非常に重要な検討課題である。 本審議会においても、研究開発学校での研究成果などを参考にし、また専門家からのヒアリングを行うなどし て、種々検討を行った。その結果、小学校における外国語教育については、教科として一律に実施する方法は 採らないが、国際理解教育の一環として、「総合的な学習の時間」を活用したり、特別活動などの時間におい て、学校や地域の実態等に応じて、子供たちに外国語、例えば英会話等に触れる機会や、外国の生活・文化な どに慣れ親しむ機会を持たせることができるようにすることが適当であると考えた。 小学校段階から外国語教育を教科として一律に実施することについては、外国語の発音を身に付ける点におい て、また中学校以後の外国語教育の効果を高める点などにおいて、メリットがあるものの、小学校の児童の学 習負担の増大の問題、小学校での教育内容の厳選・授業時数の縮減を実施していくこととの関連の問題、小学 校段階では国語の能力の育成が重要であり、外国語教育については中学校以降の改善で対応することが大切と 考えたことなどから、上記の結論に至ったところである。 小学校において、子供たちに外国語や外国の生活・文化などに慣れ親しむ活動を行うに当たっては、ネイティ ブ・スピーカーや地域における海外生活経験者などの活用を図ることが望まれる。また、こうした活動で大切 なことは、ネイティブ・スピーカー等との触れ合いを通じて、子供たちが異なった言語や文化などに興味や関 心を持つということであり、例えば、文法や単語の知識等を教え込むような方法は避けるよう留意する必要が あると考える。 さらに、各学校でのこうした教育活動を推進するため、研究開発学校における研究などにより、活動の在り方、 指導方法などの研究開発を進めていくことも必要である。 [4],海外に在留している子供たち等の教育の改善・充実 (海外に在留している子供たちの教育の改善・充実) 我が国の国際的諸活動の進展に伴い、海外に長期間在留する邦人が同伴する義務教育段階の子供の数は、平成 7年5月現在で約5万人となっている。近年は、海外在留期間の長期化、在留地域の広域化など在留形態が多 様化するとともに、特にアジアにおける子供の数が増加しており、その比率は約3割となっている。また、障 害のある子供の在籍する日本人学校数も92校中24校となっている。 海外に在留している子供たちの教育の課題も、基本的には日本の学校に学んでいる子供たちへの教育と異なる ものでなく、したがって、[生きる力]をしっかりとはぐくむなど、第2部第1章で述べたような視点に立っ た教育の充実を図ることが重要と考えるが、一人一人を大切にした教育を一層推進するとともに、海外におけ る教育という特性を生かした教育を進めていくことが、特に重要な課題となっている。 海外に在留している子供たちを取り巻く教育環境が地域ごとに極めて異なるとともに、そのような教育環境で 育つ子供たちの実態が大きく異なること、また、その教育条件が必ずしも十分とは言えないところがあること などから、一人一人を大切にした教育を推進することの必要性が極めて高くなっているのである。 例えば、近年、子供一人一人の適性にかかわりなく現地校を選択したため、日本語、現地語ともに年齢相当の 言語力に達しない状況に陥ったり、現地校において不適応等を起こすなどの問題が生じていることが指摘され ている。このため、一人一人の適性にあった学校選択ができるよう出国時の相談 ・情報提供体制の充実を図るとともに、スクールカウンセラーの委託など現地校や補習授業校において学ぶ子 供たちに対するカウンセリング機能の強化を図っていく必要が生じてきている。 日本人学校等における障害のある子供の増加に対応するため、障害のある子供たちに対する教育について専門 性を有する教員の派遣を拡充するなどこれらの子供たちに対する教育の充実を図る必要も生じている。また、 海外勤務者の若年化等に伴い、海外に在留する幼児が増加している状況にあり、これら幼児に対する教育の在 り方についても検討することが課題となっている。 さらに、海外に在留している子供たちに対し、一人一人を大切にした教育を行うためには、海外という時間的 ・空間的な制約をできるだけ克服するような対応が必要である。このため、日本人学校等の子供たちや現地校 等に通う子供たちに、衛星通信やインターネットなどの情報通信ネットワークを活用し、多様な教材を提供し たり、指導を行うことなどについて、研究を進めつつ、推進していく必要がある。 また、海外における教育という特性を生かす観点からは、日本人学校において、授業の一部を現地語で行うこ とや、現地素材を活用した現地理解教育の一層の促進を図ることも一つの方策であると考えられる。また、日 本人学校と現地校等で、特定の教科において共同で授業を行うことや、補習授業校と現地校が連携し、幾つか の教科の授業を補習授業校において平日に行うことなども有効であろう。 (海外から帰国した子供たちの教育の改善・充実) 平成6年度において、海外から帰国した子供の数は約1万3千人となっている。 帰国した子供たちの教育の課題は、その受入れをいかに円滑に進めるかということとともに、海外での経験を 通してはぐくまれた特性(外国語能力や国際性等)をさらに伸ばすこと、その特性を生かし一般の子供との相 互啓発を通じた国際理解教育を進めることである。こうした課題については、これまでにも、様々な努力が払 われてきたところであるが、今後、さらに総合的かつ質的に充実していく必要があると考える。 近年、海外に在留する子供が著しく多様化しているのを受け、帰国してくる子供たちの状況も、アジアから帰 国する子供の数の増加や国内における受入れ地域の分散化、現地在留期間の長期化や低年齢で帰国する子供の 数の増加など、その実態が著しく多様化してきている。 このような状況に適切に対応するためには、まず、帰国してくる子供や保護者に対する相談体制の充実や地方 における受入れ体制の充実が求められる。また、現地在留期間の長期化により日本語能力の形成が著しく遅れ ている子供たちの円滑な受入れを図るため、日本語指導等適応指導の一層の充実を図ることが必要となってお り、さらに、低年齢で帰国する子供の円滑な受入れについて実践的な研究を進めることが必要である。 大学・高等学校における入学者選抜については、これまでにも特別選抜の実施等様々な改善がなされ、整備さ れつつある状況にあるが、今後とも、帰国した子供たちの特性をより伸長する観点から、特別選抜の拡充を図 るとともに、これらの子供たちの異文化環境の下での学習と生活を尊重した選抜方法の多様化、評価尺度の多 元化の一層の推進を図る必要がある。また、帰国した子供たちの高等学校への編入学についても、一層配慮す る必要がある。 子供たちが海外で培った特性を保持・伸長するため、外国語教育については、外国語能力に応じた小人数指導 を行ったり、各学校の外国語の授業において、これらの子供たちの能力・適性を活用することも考えられる。 また、近年のアジアから帰国する子供の数が増加している状況を踏まえ、アジアの言語を学習する様々な機会 を拡充すること、またその際には、アジア諸国の青年等の活用を図ることも望まれることである。 これからの課題として、海外から帰国した子供たちの特性を伸ばすための指導内容・指導方法等の研究開発を さらに充実するとともに、帰国した子供たち、日本に在留している外国人の子供たち及び一般の子供たちが共 に学ぶ、異文化・異言語に開かれた教育の在り方についても研究開発を行っていくことが必要であろう。 このような海外から帰国してきた子供たちの実態に対応して、円滑な受入れを行うとともに適切に個性の伸長 を図っていくためには、帰国してくる子供たちを担当する教員等の資質の向上が重要であり、教員等の研修の より一層の充実が必要である。 海外から帰国する子供たちをいかに円滑に我が国の学校に受け入れるかは、ある意味で、我が国の学校教育の 柔軟性が問われる課題である。この問題への対応を、我が国の教育の在り方や指導方法を様々な観点から点検 し、改善すべき点は改善していく良い機会としてとらえていく視点が必要であると考える。 (日本に在留している外国人の子供たちの教育の改善・充実) 平成2年の出入国管理及び難民認定法の改正以降、我が国の学校で学んでいる日本語指導が必要な外国人の子 供たちが急増している。その数は、平成7年は約1万2千人となっているが、これは4年前と比較して約2. 1倍であり、母語は46言語に上っている。このため、日本語指導をはじめ学校での生活や学習への適応の問 題等様々な教育上の課題が生じているが、これらの課題に対応していくためには、我が国の学校が、異文化・ 異言語に開かれた学校になっていくこと、そして、外国人の子供たちに対しても、柔軟な受入れ体制を整えて いくことなどが必要である。 特に、受入れ時からの効果的な日本語指導等を行うための諸施策を推進することは、喫緊の課題となっており、 日本語指導カリキュラムや日本語能力を客観的に把握する診断テストの開発を行うとともに、こうした外国人 の子供たちを多く受け入れ、日本語指導等を手厚く行う拠点校の配置に配慮することが必要と考える。また、 外国人の子供たちが我が国の生活習慣や学校生活に円滑に適応したり、教科の学習を行う上で必要な日本語能 力の速やかな習得を図るためのJSL(第2言語としての日本語教育)システムの開発・実施を進めることや、 これらの子供たちの日本語指導等に当たる教員研修等の充実を図ることも重要である。 また、日本に在留している外国人の子供たちの教育の改善・充実を図るためには、学校をはじめ地域の関係機 関やボランティア等の協力の下、地域社会一体となった取組が求められるところである。このため、モデル地 域の育成、相談体制の整備や、ボランティアや指導協力者に対し市町村教育委員会や関係団体等が支援する取 組を奨励するなど、地域における受入れ体制の一層の充実が望まれるところである。 第3章,情報化と教育 [1],情報化と教育 情報化の進展は、今、新たな段階を迎えつつある。既に我が国では、企業活動、研究活動から教養文化活動、 娯楽の世界まで、社会のあらゆる分野に情報化が浸透し、情報化社会と言われるにふさわしい社会を迎えてい るが、今日見られるインターネット、マルチメディアー体型のパソコン、携帯電話などの普及は、想像をはる かに超えて我々の生活様式をさらに急速に変えつつある。 世界的規模での情報通信ネットワークを通じて、不特定多数の者が、双方向に文字・音声・画像等の情報を融 合して交換することを可能とする高度情報通信社会が現実のものとなりつつあり、それはかつての産業革命に も匹敵するような変化を全地球的にもたらし、今後の社会の姿を大きく変え、21世紀へ向けて新たな展望を 開くものとして大きな期待が寄せられている。高度情報通信社会の全体像については、今後の技術革新や基盤 整備の動向によっても左右され、なお明確でないところがあるが、情報化が、さらに急速に進展することは確 実である。 情報化の進展は子供たちの教育にも様々な影響を与えている。 まず挙げられるのは、子供たちが様々な情報手段から入手する情報量の膨大さと内容の多様さである。もちろ ん個人差や学校段階によって違いはあろうが、量的には学校教育を通して提供される情報を凌駕し、またその 内容は学校の授業で学ぶものよりも子供たちの興味や関心を大いに引きつけるものが少なくない。 情報の豊富さは、プラスに生かせば子供たちの発想を膨らませ、日常生活の幅を広げ、豊かにするものである ことは間違いない。しかし、情報は常に正しいものとは限らないし、また意義のあるものとも限らない。興味 本位のものも相当に含まれていると考えた方がよい。そうした懸念をよそに、子供たちが手にする情報は、パ ソコンや情報通信ネットワークの普及などによって今後増加の一途をたどるものと考えられる。このような溢 れる情報の中で、子供たちが誤った情報や不要な情報に惑わされることなく、真に必要な情報を取捨選択し、 自らの情報を発信し得る能力を身に付けることは、子供たちにとってこれからますます重要なこととなってい くと言わなければならない。 次に、コンピュータの普及は、ソフトウェアの開発とあいまって、子供たちの個別的な学習をより可能とする とともに、多彩な教材を提供することなどによって、子供たちの学習の在り方により多くの可能性を与えるこ とになる。 様々な方法によるコンピュータの活用は、既に我が国の学校教育において広範に見られるものであるが、コン ピュータの普及とソフトウェアの開発がさらに進めば、コンピュータが、教員の役割を補完して、一人一人の 子供の特性等に合わせた個別指導を徹底して行っていくといった学習の在り方がに大いに資するものと考えら れる。 しかし、コンピュータ等を活用した個別学習の徹底やコンピュータを用いた疑似体験の増大は、ゲームソフト に熱中する子供について問題点として指摘されているような、例えば、教員と子供、あるいは子供同士の人間 関係の希薄化や子供たちの実際の生活体験・自然体験の不足などを引き起こしかねないといった問題を内包し ていることを我々は見逃してはならない。 さらに、情報化の進展が教育に及ぼす影響の顕著なものとして、各学校が、学校外の様々な機関、組織、人々 等との連携・協力の下に教育を進めていくことを可能にするという点がある。これによって、各学校はそれぞ れの学校単独ではなしえない教育活動を展開し、全体としてその学校の指導力を高めることが可能となるので ある。 情報通信ネットワークの普及により、学校はその学校の置かれた地理的環境にかかわりなく、必要とする情報 を迅速に入手して、指導の場面に生かしていくことができる。インターネットなどを活用すれば、その範囲は 国内にとどまらず、一挙に世界に広げることができるのである。このことは、子供たちの学習素材を豊かにし、 子供たちの興味や関心を広く豊かにすることに大いに資するであろう。また、情報通信ネットワークの活用に よって、学校は必要な情報の収集、情報交換等を適時に行い、遅滞なく必要な措置を講ずるなど、学校運営の 改善・充実にも寄与するところが非常に大きいものと考えられる。 我々が情報化の進展と教育について考えたポイントは二つである。 一つは、情報化が進展するこれからの社会に生きていく子供たちに、どのような教育が必要かということであ り、もう一つは、子供たちの教育の改善・充実のために、コンピュータや情報通信ネットワーク等の力をどの ようにしたら生かしていくことができるか、どのように生かしていくべきかということである。 そして、我々は、これらについて特に次のような点に留意して、教育を進めていく必要があると考えた。 (a),初等中等教育においては、高度情報通信社会を生きる子供たちに、情報に埋没することなく、情報や情報 ,機器を主体的に選択し、活用するとともに、情報を積極的に発信することができるようになるための基礎,的 な資質や能力、すなわち、「高度情報通信社会における情報リテラシー(情報活用能力)」の基礎的な資,質や能 力を育成していく必要があること。 (b),学校は、情報機器やネットワーク環境を整備し、これらの積極的な活用により、教育の質的な改善・充実, を図っていく必要があること。 (c),情報機器やネットワーク環境の整備をはじめ、学校の施設・設備全体の高機能化・高度化を図り、学校自, 体を高度情報通信社会に対応する「新しい学校」にしていく必要があること。 (d),情報化の進展については、様々な可能性を広げるという「光」の部分と同時に、人間関係の希薄化、生活, 体験・自然体験の不足の招来、心身の健康に対する様々な影響等の「影」の部分が指摘されている。教育,は、 これらの点を克服しつつ、何よりも心身ともに調和のとれた人間形成を目指して進められなければな,らないこ と。 [2],情報教育の体系的な実施 情報化がこれからますます進展していくことを踏まえるとき、子供たちに、広く情報の理解、選択、整理、創 造、発信などの基礎的な能力の育成を図るとともに、コンピュータ等の情報機器を活用し得る基礎的な能力や コンピュータ等の持つ可能性と限界、さらには情報化社会の特質等についての正しい知識などを培っておくこ とは、今後一層重要なことになると考える。 情報教育,(情報についての全般的な教育)は既に我が国の初等中等教育においても取り組まれてきているが、 子供たちの発達段階を十分に考慮しながら、小・中・高等学校の各段階における系統的・体系的な情報教育を 一層充実させていく必要がある。特に、コンピュータを中心とした情報教育については次のような充実を図っ ていくべきである。 各学校段階ごとには、まず、小学校では、各教科において、創作・表現活動、調べ学習、探究的な学習などに おいて、学習活動を豊かにする道具としてのコンピュータの活用を図りながら、コンピュータに慣れ親しませ るようにしていくことが必要である。学校や地域の実態等に応じ、「総合的な学習の時間」を活用して、コン ピュータに触れながら、どのように活用できるかを体験的に学習できるようにすることも意義のあることであ る。 中学校では、コンピュータの扱い方を含め、情報を適切に活用する基礎的な能力を養うようにするとともに、 生徒の興味や関心等に応じてさらに発展させた内容を学習することができるようにすることが必要である。こ れらの学習と併せて、学校や地域の実態等に応じ、「総合的な学習の時間」を活用して、情報通信ネットワー クを活用した学習等ができるようにしたり、各教科において、課題の発見、情報の収集、調査結果の処理・発 表など、学習内容を豊かにする道具としてのコンピュータの活用を図っていくことも意義のあることである。 高等学校では、小・中学校での学習の基礎の上に立って、各教科でのコンピュータの活用を一層促すような配 慮が必要である。専門高校や総合学科については、情報関連科目の充実を図ること、普通科については、学校 や生徒の実態等に応じて情報に関する教科・科目が履修できるように配慮することが必要である。 なお、初等中等教育段階におけるコンピュータに関する学習は、一般的にはコンピュータを「道具」として使 いこなせるようにするということが基本である。そのためには、個に応じた指導に留意するとともに、学校や 生徒の実態等に応じて、例えば、一定の期間に集中して指導することができるよう、教育課程の弾力化を図る ことなども考えるべきであろう。 各学校で、情報教育が活発に展開されるためには、教育用コンピュータが十分に整備されることが必要である。 現在、教育用コンピュータの計画的整備(平成6年度からおおむね6年間で小学校に22台〔児童2人に1台〕 、中学校に42台〔生徒1人に1台〕、普通科高等学校に42台〔生徒1人に1台〕、特殊教育諸学校に8台〔児 童・生徒1人に1台〕)が実施されているが、その円滑な実施が望まれる。また、その後の整備の基本的な考 え方としては、各学校一律ではなく、児童生徒数等、その学校の規模などに応じた整備をさらに行って、児童 生徒が、授業時間外も含めて日常的にコンピュータを使えるような環境を整備していくことが必要と考える。 また、コンピュータ以外の多様な情報機器についても、整備を図っていくことが望まれる。 各学校でコンピュータを有効に活用するためには、ハードウェアの整備だけでなく、教育の実践経験を通して 作られた、良質で多様なソフトウェアが整備されることが必要である。現状は、授業で効果的に使用できるソ フトウェアが十分に整備されておらず、また、研究開発の取組も必ずしも十分ではないと言わなければならな い。教育関係者や情報処理技術者の両者が加わった研究グループに委託することなどによって、教育的観点に 立ったソフトウェアの研究開発を一層進め、各学校に質の高い多様なソフトウェアの整備を図っていくことが 急がれるところである。 また、「教育用ソフトウェアライブラリセンター」の整備を進めるなどして、学校関係者がそれぞれの学習活 動に最も適した教育用ソフトウェアを検索・試用することができる機会を充実すること、教育用ソフトウェア の評価システムについて研究を進めていくこと、さらに、情報通信ネットワークを通じて、ソフトウェアを提 供する方法について研究開発を進めていくことなども重要なことである。 [3],情報機器、情報通信ネットワークの活用による学校教育の質的改善 我が国の初等中等教育における情報機器活用の歴史は、極めて浅いものであるが、各学校での様々な取組を通 して、指導方法の改善・充実などに大いにその力を発揮してきたと言うことができる。しかし、[2],で述べた ように、なお様々な課題が残されており、コンピュータ等の情報機器の扱いについては、今後さらに様々な角 度から研究に取り組み、その成果を実際の指導の場に積極的に生かしていくべきであると考える。 加えて、我々は、ここで情報通信ネットワークの活用について提言したい。 高度情報通信社会は、コンピュータを単体で活用するのではなく、それらが情報通信ネットワークによって一 体となって機能するところに、その本質があるのであり、我が国社会全体は、既にその方向に向かって急速に 前進している。 現在、初等中等教育の関係では、インターネットを活用した教育や光ファイバー網を活用した教育について、 研究開発が進められているが、これらの研究成果や我が国における情報通信ネットワーク環境の整備状況など を踏まえつつ、初等中等教育段階での情報通信ネットワークの活用を本格的に進めるべきである。 情報通信ネットワークの活用は、一つの学校の枠を越えて、様々な学校や地域との情報の共有・交流を可能に し、学校がそれらとの連携の下に教育活動を展開することを可能にするものであるから、子供たちに豊富な教 材を提供する上で、また子供たちの学習の対象を広げ、興味や関心を高める上でその効果は極めて大きなもの があると考えられる。例えば、他の学校とネットワークを結ぶことによって、様々な情報交換を行うことなど は、日常のありふれた活動となるであろうし、時には合同授業を実施することも考えられるであろう。これら の試みによって、子供たちの世界は大きく広がっていく。社会教育施設や文化施設、大学、関係行政機関等と ネットワークを形成することも意義のあることである。博物館、美術館、図書館、大学等は子供たちにとって 魅力のある教育用素材の宝庫であり、これらの素材の情報データベース化を進めるとともに、これらを情報通 信ネットワークを通して授業に活用することは、子供たちの学習に対する興味を大いに高めるであろう。国際 理解教育や環境教育も情報通信ネットワークの対象を世界に広げることによってはるかに豊かな充実したもの になっていくであろう。 こうした学習を通して、子供たちは、自らの情報発信能力を高めることの必要性を実感するであろうし、教室 の授業だけでは得られない感動を覚えるであろう。子供たちの興味や関心の対象は、意図すると否とにかかわ らず、国内外の様々な社会や人々へと広がり、これにより子供たちの視野が大きく広がっていくものと考えら れる。 また、情報通信ネットワークの活用は、教育上の様々な制約を克服するうえで大きな効果を発揮するものであ る。例えば、ややもすると情報の不足しがちなへき地などにある学校は他校、他地域とのネットワークの形成 によってその悪条件を相当に改善することが可能と考えられるし、また病気療養児の教科学習等を補完するた めに情報通信ネットワークを活用することも極めて有効な方法と考えられる。 情報通信ネットワーク環境の整備の在り方としては、近い将来、すべての学校がインターネットに接続するこ とを目指しつつ、当面は、全国の幾つかの地域の学校にネットワーク環境を整備し、インターネット利用の実 践研究を積極的に実施し、その成果等を踏まえながら全国に広げていく方法が適切と考える。 現在、インターネットの使用言語の多くが英語であり、このことが我が国の学校でのインターネット利用を遅 らせているという状況がある。この問題に対処するためには、もちろん、外国語教育の改善を図ることも重要 であるが、日本語の情報データベースを格段に充実していくことも必要と考えられ、その具体的方途をどうす るかといった問題についても対応を急がなければならない。このほか、ネットワーク環境を広げていくに際し ては、インターネット上の好ましくない情報の取扱いの問題、情報モラルの問題など、様々な問題がある。こ のような問題の早急な研究・検討の重要性を改めて指摘しておきたい。 また、21世紀には、光ファイバー網や衛星通信等の高度情報通信ネットワークが、一層普及していくととも に、さらなる技術革新によって、ネットワークの新たな形態での活用が展開されていくものと考えられる。こ のような点についても、今後の動向を見据えつつ、教育における活用の在り方について、さらに積極的に研究 開発に取り組んでいく必要がある。 [4],高度情報通信社会に対応する「新しい学校」の構築 [2]及び[3]では、高度情報通信社会が現実のものとなりつつある我が国において、それに適切に対応していく ための初等中等教育段階での教育の在り方について述べた。 ここでは、我々はそのような教育活動を展開していくためには、学校自体が高度情報通信社会にふさわしい施 設・設備を備えた「新しい学校」になっていく必要があることを指摘したい。 学校、とりわけ初等中等教育段階における学校の情報通信関連施設・設備の現状は、高度情報通信社会への対 応という点で必ずしも十分とは思われない。そうした学校の状況を改善していくことが、子供たちの教育を充 実させることにつながっていくのである。[2],や[3],で述べたコンピュータやネットワーク環境の整備等をは じめ、学校の施設・設備全体の高機能化・高度化を図り、学校全体を高度情報通信社会に対応した機関にして いかなければならない。学校、教育センター、大学等の教育関係機関はもとより、他の様々な機関、組織等と ネットワークを形成し、情報収集の迅速化、学校運営や学校事務処理の合理化・迅速化等を図るとともに、適 時、保護者、地域の人々、さらには広く社会に対し、自らの情報を積極的に発信していく開かれた学校となっ ていくことを強く望むものである。 学校の施設の中で、特に学校図書館については、学校教育に欠くことのできない役割を果たしているとの認識 に立って、図書資料の充実のほか、様々なソフトウェアや情報機器の整備を進め、高度情報通信社会における 学習情報センターとしての機能の充実を図っていく必要があることを指摘しておきたい。また、学校図書館の 運営の中心となることが期待される司書教諭の役割はますます重要になると考えられ、その養成について、情 報化等の社会の変化に対応した改善・充実を図るとともに、司書教諭の設置を進めていくことが望まれる。 学校が高度情報通信社会に対応した「新しい学校」となっていくために、教員の果たす役割の重要性は言うま でもないことである。 学校段階、教科の別なく、教員が学校で何らかの形でコンピュータを活用する必要性が増しており、教員がコ ンピュータの活用に関する基礎的な知識・技術を習得できるよう、教員の養成・研修の充実を図るとともに、 情報処理技術者等の専門家の活用を推進していくべきものと考える。 教員養成については、現在教員免許状取得に当たって必修となっている「教育の方法及び技術(情報機器・機 材の活用を含む。)に関する科目」における教育をはじめ、コンピュータの活用に関する教育の一層の充実を 図っていく必要がある。 研修については、初任者研修、経験年数に応じた教職経験者研修、校内研修など現在様々な形で行われている が、これらの機会を積極的に活用して、コンピュータに関する研修をさらに充実させることを望んでおきたい。 また、各学校での実態を見ると、教員の中でも、コンピュータに関する専門的知識を持ち、意欲的にこれを活 用する教員がその学校の情報教育の推進に指導的な役割を果たしている例が多い。このような実情を踏まえ、 特定の教員に対する専門研修の充実を図って、各学校にそのような指導的な役割を果たす教員を複数確保し、 学校全体の情報教育を継続的に推進していくような校内体制を整備していくことも望まれる。 さらに、学校の情報化に対応した指導体制の充実を図るため、情報処理技術者や専修学校の教員等のコンピュ ータに関する指導の専門家を、授業や教員研修などの場に迎えることも積極的に推進されるべきものと考える。 以上[2]及び[3]を通じて、情報化の進展に対応した教育の在り方について、主として学校で取り組むべきこと を中心に述べてきた。情報化の進展は極めて著しく、また全国的な規模で進められるべき課題であることなど を踏まえ、ここに二つのことを提言しておきたい。 一つは、教育における情報化に関する様々な施策を中長期的な視野に立って総合的に推進するため、文部省に おいて関係省庁の協力を得つつ、コンピュータ等の情報機器やネットワーク環境の整備をはじめとしたマルチ メディアに関する総合推進プログラムを策定することを提言したい。これからの情報化は、様々な点で、我々 の予測を超えた形で進んで行くと考えられる。したがって、このプログラムは、社会における情報通信基盤の 整備状況や技術革新の状況を踏まえつつ、適宜見直され、その時々において、関係者が学校の情報化の進展に ついての基本的な方向に関し、共通の認識を持つための指針を示すものとなることを望むものである。 もう一つは、国立教育会館が、教育等に関する情報を収集し、データベース化し、それらを全国に提供するな どの機能を果たす教育情報のナショナルセンターとしての役割を担っていくことを提言したい。今日様々な教 育課題に直面する中で、教育関係者が、広く全国レベルでの教育関係施策等に関する情報や教育関係の統計情 報、教育関係の各種実践事例の情報等を必要に応じ、随時入手し得るような仕組みを整備することは、極めて 重要なこととなっている。国立教育会館が、豊富な情報を必要に応じ、一括して提供できるような機能を持つ ことは、極めて有効なことと考える。 [5],情報化の「影」の部分への対応 情報化の進展に対応し、子供たちに様々な悪影響を与えるいわゆる情報化の「影」の部分の問題が指摘されて いる。[1],においても述べた通り、様々なマスメディアから流されるあまりにも多くの情報の中で、子供たち はどの情報を選択するか極めて難しい環境に置かれていること、また情報機器等の技術が進歩すればするほど 増加する間接体験・疑似体験と実体験との混同を招くこと、さらには、テレビゲーム等に没頭する例に象徴さ れるように、あまりにも長時間にわたって情報機器等に向かい合うことが人間関係の希薄化や真の生活体験・ 自然体験の不足を招来させたり、子供たちの心身の健康に様々な影響を与えることなどの懸念が、問題点とし て指摘されている。 情報化の進展に対応する教育を考えるに当たって、こうした情報化の「影」の部分の持つ問題に、学校のみな らず、家庭、地域社会が相互に連携・協力し合って、真剣に取り組む必要がある。 その際重要なこととして指摘しておきたいことの一つは、子供たちに、コンピュータ等の情報機器はあくまで 自分を助ける「道具」であること、そして、自らの考えを持ち、自ら判断し、自らの責任において行動するこ とが大切であることを十分理解させることである。 さらに、情報機器はあくまで自分たちの行動を支援するためのものであり、より大切なことは人間同士の触れ 合いであること、コンピュータ等を通して体験するものはあくまで間接体験や疑似体験であって、実際の生活 体験・社会体験・自然体験などの直接体験こそが大切であることなどについて子供たちにしっかりと理解させ るとともに、我々大人たちもこうしたことの大切さについて、さらに認識を深める必要がある。 また、一人一人が情報の発信者となる高度情報通信社会においては、プライバシーの保護や著作権に対する正 しい認識、「ハッカー」等は許されないといったコンピュータセキュリティーの必要性に対する理解等の情報 モラルを、各人が身に付けることが必要であり、子供たちの発達段階に応じて、適切な指導を進める必要があ る。そして、こうした点について子供たちに正しく理解させるための指導方法や指導内容等について研究を促 進する必要がある。 第4章,科学技術の発展と教育 [1],科学技術の発展と教育 科学技術は、現代文明の発展を支え、人類の活動範囲を拡大してきた。今後、科学技術は、生命とは何か、物 質とは何か、宇宙とは何かといった人類が抱いてきた根源的な問いの解明を試みながら、さらに発展していく ものと予想される。そして、これらの発展は、人類にとって豊かな21世紀社会を築く原動力になるものと考 えられる。人間の知的創造力が最大の資源である我が国にとって、諸外国以上に、科学技術の発展は重要であ る。特に、欧米先進諸国に追い付くことを目標に、欧米先進諸国が築いてきた科学技術を活用しつつ、科学技 術と経済の発展を遂げてきた我が国は、今後、独創的な科学技術を生み出すなど自らフロンティアを開拓し、 人類の知的資産を形成するとともに、[ゆとり]のある豊かな社会を築いていかなければならない。また、経 済大国となった我が国は、科学技術の面でも積極的に国際社会に貢献していく必要がある。一方、科学技術が 著しく高度化・細分化・専門化する中で、科学技術と社会との調和が大きな課題となるとともに、人々は、科 学技術が生活に欠くことのできない重要なものであることを承知しながら、何か分かりにくいもの、人々の安 全をも脅かすものとなりかねないといった不安感を抱いていることもまた否定できない事実であろう。 今後とも科学技術の発展は重要な課題であるが、人々がこうした不安感を抱くことのないような、科学技術に 対する信頼感の醸成は極めて重要な問題であることを忘れてはならない。 科学技術の発展は言うまでもなく、様々な条件が全体として成り立って、初めてなされるものであるが、中で も研究者・技術者などの人的資源の充実はその核をなすものである。そして、そのような優れた人材は一朝一 夕に形成されるものではない。初等中等教育の段階から地道な教育の努力をしていくことが不可欠である。こ のような中で、昨今、青少年の「科学技術離れ」や「理科離れ」といった指摘がある。この点については、我 々も種々論議を重ねたが、少なくとも小・中学校の段階では、「理科」に対する興味や関心が、低下している という「理科離れ」といった現象は明確でなく、むしろ、子供たちが学問的あるいは知的な関心を持って問題 を真剣に考える姿勢が希薄になっているという「知離れ」といった現象が生じてきており、それが「理科離れ」 として指摘されているのではないかと考えた。しかし、これこそ、我が国の子供たちの教育を考えるに当たっ て極めて重大な問題であると思われるのである。また、このことに関連して、大学学部への志願者総数に占め る理工系志願者の割合が、やや低下傾向であるなど、若者の理工系離れが懸念されている。その原因としては、 大学の理工系学部の学生生活に対するイメージや企業における理工系人材の処遇の問題など、様々な事情が指 摘されている。 我々は、まだ進路が明確になっていない初等中等教育段階において、子供たちに豊かな科学的素養を育成する ことはもちろん重要であると考えるが、大学の理工系分野における魅力の向上や情報発信の取組などを含めた 幅広い取組を通じて、我が国における理工系人材の育成を図っていくことが大切であると考える。 また、「知離れ」といった現象を踏まえ、我々は可塑性に富んだ子供たちが、どの分野に限らず、学ぶことに 興味を持ち、様々な体験をする中で、未知のものを知る感動を味わったり、自由な発想を持って様々なことを 構想しつつ、知的好奇心を高めていくことが重要であると考える。 我々は、科学技術の発展に対応した教育の在り方についてこのように考え、特に次のような点に留意して、教 育を進めていく必要があると考えた。 (a),初等中等教育においては、子供たちの自由な発想を大切にし、特に体験的な学習を通して子供たちに科学 ,的なものの見方や考え方などの豊かな科学的素養を育成する必要があること。そのためにも、これまでの,知 識を一方的に教え込むことになりがちであった教育から、自ら学び自ら考える力や創造性の基礎となる,力の育 成を目指した教育に、その基調を変えていく必要があること。 (b),子供たちに豊かな科学的素養を育成するため、地域社会において、体験的に学習できる博物館等の整備や ,社会教育施設等における科学教室の開催など、様々な学習機会の提供に努める必要があること。 [2],科学的素養の育成に関する教育の改善 子供たちに、一層豊かな科学的素養を育成していくためには、初等中等教育段階では、理科教育等の改善を図 っていく必要がある。 理科教育については、近年の学習指導要領の改訂においても、観察・実験、探究活動などの、問題を発見し、 解決していく問題解決的な学習や体験的な学習を重視する方向が打ち出されてきたところであるが、さらにこ うした問題解決的な学習や体験的な学習を重視する方向で改善を図っていく必要があると考える。公式を暗記 したり、実験の結果を記憶したりするだけの授業では、科学の面白さは分からない。第1章で述べたように、 感動を覚え、疑問を感じ、推論するなどの学習の過程を大切にし、子供たちが、試行錯誤を繰り返し、「発見 する喜び」や「創る喜び」などを体験することは、科学的素養の育成に当たって、とりわけ重要なことである。 子供たち自身の発想を生かした観察や実験などの問題解決的な学習や体験的な学習を十分に取り入れた理科教 育を展開していくためには、教育内容を厳選し、教育課程を[ゆとり]のあるものとする必要がある。子供た ちがじっくりと考える、[ゆとり]を持った学習を通して、初めて、子供たちは科学的なものの見方や考え方 などの豊かな科学的素養をしっかりと身に付けることができるのである。 小・中学校を通じ、こうした観察・実験などの活動や探究活動は、特定の期間に集中して行うことにより、よ り効果をあげることができる場合がある。そのため、そのような指導が可能となるよう教育課程を弾力化する ことも必要である。また、観察・実験などの活動や探究活動などの指導を充実するためには、ティーム・ティ ーチングの一層の導入をはじめ、グループ学習、小人数学習などの個に応じた指導の充実を図っていく必要が あり、さらに、中学校の段階では、生徒の能力・適性、興味・関心等に対応できるよう理科の授業時数の選択 幅の弾力化を図っていく必要があると考える。 高等学校については、生徒の能力・適性、興味・関心等の多様化の実態を踏まえ、生徒の選択をできるだけ生 かし得るような教育課程の編成が望まれる。したがって、生徒が共通に学ぶものは最小限にとどめる必要があ ると考えるが、科学と人間や自然とのかかわりについて適切な知識を持っておくことの必要性や、そのことを 理解するために求められる科学に関する知識のレベル等を考慮すると、高等学校の段階で、中学校の理科の基 礎的な学習の上に、例えば、科学がこれまで、自然の謎の探究・解明にいかに挑戦し、文明の発展に寄与して きたか、また、今日、科学が人間の生活にどのようにかかわり、どのような課題に直面しているかなどを学ば せることが必要であろう。その基礎の上に、生徒の能力・適性、興味・関心等に応じて、さらに専門的な学習 に進んでいけるような履修の仕組みを高等学校段階で整えることを検討する必要があると考える。 問題解決的な学習や体験的な学習などを生き生きと展開するには、その指導の場を学校の中だけにとどまらせ ていてはならない。身近な自然も学習の場として格好の場であるが、博物館等の社会教育施設を活用すること や、関係団体との連携を図って教育活動を行っていくことも必要である。例えば、科学と人間のかかわりを学 習する場合などは、研究所や工場などを見学することも意義のあることであろう。 今日、科学技術は人類に大きな恩恵をもたらす一方、社会との調和が大きな課題となっている。このような状 況を踏まえて、科学と人間や自然とのかかわりなどについての学習を充実させていく必要があるが、こうした 学習の指導は、理科だけでなく、技術・家庭科、社会科、国語科などの教科においても、相互に関連を図りな がら行っていくことが大切なことと考える。 以上述べたような教育を実践し、子供たちに真に豊かな科学的素養を培っていくためには、カリキュラムの改 善のほか、指導に当たる教員の指導力の向上、学習を支援する施設・設備の整備、入学者選抜の改善など、様 々な取組が必要である。 教員の指導力の向上に関しては、教員の養成、採用、研修の各段階において、実験や実習などを重視し、理科 教育担当教員の問題解決的な学習や体験的な学習などにかかる指導力の一層の向上を図らなければならない。 特に、養成の段階においては、実験や実習の充実や、それらによる指導方法の習得の重視など、カリキュラム の改善を図っていく必要がある。教員の採用に当たっても、実験等の実技を採用試験に取り入れるなど、採用 方法の工夫が望まれる。また、指導体制の充実のため、特別非常勤講師制度を活用して、研究者や技術者等の 社会人を学校現場に受け入れることも、積極的に進められるべきであろう。 施設・設備面においては、学校における観察や実験用設備を一層整備したり、学校単独では設置できない高性 能で大型の観察・実験装置等を設置し、子供たちが、観察・実験を楽しく体験することができる場として「科 学学習センター」を市町村単位で整備するなど、理科教育の学習環境を整備していくことも必要である。 また、観察や実験など問題解決的な学習や体験的な学習に学校が十分取り組むためにも、大学や高等学校の入 学者選抜について、子供たちが観察や実験などの問題解決的な学習や体験的な学習を通じて身に付けていく科 学的なものの見方や考え方が適切に評価されるよう、選抜方法の一層の改善を図っていくべきであると考える。 [3],地域社会における様々な学習機会の提供 子供たちに、豊かな科学的素養を育成するためには、学校教育だけでなく、地域社会において、科学に関する 様々な学習機会が用意されていることが重要である。様々な学習機会に出会うことで、子供たちの中に科学に 関する興味や関心が呼び起こされ、科学に関する夢と期待がはぐくまれていくのである。 科学博物館などは、今日、子供たちが自らの興味・関心に応じつつ、科学に親しみながら、科学的なものの見 方や考え方を身に付けていく上で、大きな役割を果たしているが、これからは、さらに子供たちが、直接、物 に触れたり、動かしたりするなど五感を使って体験できる学習の場として整備し、子供たちにとって一層魅力 あるものにしていく必要がある。また、科学博物館や少年自然の家などの社会教育施設が、今後、それぞれの 特色を生かしつつ、科学についての体験型の学習機会の提供を一層充実させていくことが望まれる。そのため には、特に、学芸員等の職員の資質の向上などを図り、その体制を充実させていく必要があると考える。 我が国の基礎研究を担っている大学や研究所には、施設見学の機会の提供やセミナーの開催などを通じて、科 学の面白さや魅力について、子供たちに積極的に情報発信していくことを望みたい。その際、特に、科学者た ちには、試行錯誤を繰り返しながら、生命や宇宙の神秘に迫っている現代科学の本当の魅力を様々な機会を通 じて、子供たちに分かりやすい言葉で語りかけることを期待したい。 我が国の科学技術の一翼を担ってきた企業に対しても、製造現場における最新鋭の施設や設備の見学の機会を 子供たちに提供することを望みたい。その際、特に、研究者や技術者たちには、いかに苦労しながら、創意工 夫をしつつ、新しい生産技術を生み出してきたかを子供たちに伝えることなどを期待したい。 また、自然現象に触れて、その神秘に探究心を抱くことは、科学の原点である。その意味で、自然観察やキャ ンプなど自然に親しむ機会が、できるだけ多く子供たちに提供されることが望まれるところである。 以上、科学に関する学習機会について、幾つかの例を挙げてみたが、こうした学習機会は、このほかに様々に 考えられるであろう。我々は、多くの施設、機関、団体等が、それぞれ特色のある学習の機会を子供たちに積 極的に提供していってほしいと考える。しかし、せっかくの学習機会も、どのような活動がいつ、どこで行わ れているか等の情報が子供たちに伝えられなければ意味を失ってしまう。このため、市町村教育委員会が中心 となって地域社会における科学に関する学習機会についての各種の情報をデータベース化するとともに、関係 機関や民間団体などとの情報通信ネットワークを形成し、子供たちに情報を十分に提供する体制を整備するこ とが必要であることを指摘しておきたい。 第5章,環境問題と教育 [1],環境問題と教育 社会経済活動の拡大や人口の増大は、環境の持つ復元能力を超え、地球温暖化、オゾン層の破壊、砂漠化、熱 帯雨林の減少、野生生物の種の減少、酸性雨問題など人類の生存基盤である地球環境そのものに取り返しのつ かない影響を及ぼすおそれを生じさせている。こうした近年における地球環境問題の深刻化は、我々に改めて 地球の有限性について気づかせると同時に、大量生産・大量消費・大量廃棄型の現代文明と生活様式の在り方 に問いを投げかけている。また、大気汚染、騒音問題、水質汚濁やごみ問題など都市・生活型公害の問題も依 然として大きな課題となっている。 このような環境問題に対応するには、地球規模で協調して取組を進める必要があり、この面においても、我が 国は、国際社会に貢献していく必要がある。また、我が国自身の問題として、我が国の社会経済システムの在 り方そのものや生活様式を、省資源、省エネルギー、リサイクルを図ることなどによって、環境への負荷が少 ないものへと変革することが重要である。そして、今、一人一人が「宇宙船地球号」の乗組員の一員であると いう全地球的な視野を持つと同時に、人間と環境とのかかわりについて理解を深め、自然と共生し、いかに身 近なところから、具体的な行動を進めるかが極めて重要な課題となっている。 このように環境問題は、極めて幅の広い問題であり、したがって、環境教育も、その対象は身近な身の回りの 問題から地球規模の問題までの広がりを持ち、その学習領域も自然科学・社会科学の分野から一人一人の感性 や心の問題にまで及んでいる。また、ある意味で、一人一人の子供たちの生き方にもかかわる課題でもある。 このような環境教育の特質を考えると、それは単に、学校教育における取組のみをもっては、到底そのねらい を達成できるものでなく、幼少年期からの、学校、家庭、地域社会のそれぞれの場における様々な取組によっ て、初めてその実効が期せられるものである。 我々は、このような認識の下に、子供たちが、豊かな自然や身近な地域社会の中での様々な体験活動を通して、 自然に対する豊かな感受性や環境に対する関心等を培う「環境から学ぶ」ということ、環境や自然と人間との かかわり、さらには、環境問題と社会経済システムの在り方や生活様式とのかかわりについて理解を深めるな ど「環境について学ぶ」ということ、そして環境保全や環境の創造を具体的に実践する態度を身に付けるなど 「環境のために学ぶ」という視点が重要であると考えた。そして、特に次のような点に留意して、教育を進め ていく必要があると考えた。 (a),初等中等教育においては、子供たちの発達段階を十分考慮しつつ、各教科などの連携を図り、環境への理 ,解を深め、環境を大切にする心を育成するとともに、一人一人が身の回りのできることから、環境の保全,や よりよい環境の創造のために主体的に行動する実践的な態度や資質、能力を育成していく必要があるこ,と。 (b),子供たちに、環境を大切にする心や、環境を保全し、よりよい環境を創造していこうとする実践的な態度 ,を育成するため、地域社会において、様々な環境にかかる学習機会の提供に努める必要があること。 [2],環境教育の改善・充実 地球環境問題をはじめとした環境問題に対して関心が高まる中、近年、各学校において、環境教育に対する取 組が進められてきている。しかし、率直に言って、その取組の歴史は浅く、まだ各学校が十分な実践の経験を 持っているとは言えない。これから、環境教育はますますその重要性を増していくとの認識の下に、各学校に おいては、他の学校における取組や様々な機関、団体、地域などでの実践事例を踏まえ、それぞれの学校や地 域の特色などを生かした具体的な取組が積極的に進められていくよう期待するものである。 我々は、上述のように、環境教育の視点を大きく三つに分けて考察したが、それぞれを通じて、特に留意すべ き点は次のようなことである。 まず第一は、繰り返し指摘しているように、環境問題が学際的な広がりを持った問題であり、したがって、各 学校において環境教育を進めていくに当たっても、各教科、道徳、特別活動などの連携・協力を図り、学校全 体の教育活動を通して取り組んでいくことが重要だということである。 その際、各学校では、教員間の共通理解を図り、各教科、道徳、特別活動などのそれぞれにおける指導内容と、 それらの相互の関連付けを明確にするとともに、子供たちの発達段階や学校の周りの環境の特色等を十分に踏 まえて、環境教育に取り組むことが大切である。 第二は、環境や自然と人間とのかかわりについて理解を深めるとともに、環境や自然に対する思いやりやこれ らを大切にする心をはぐくみ、さらに、自ら率先して環境を保全し、よりよい環境を創造していこうとする実 践的な態度を育成することが大切だということである。 環境教育を通して、子供たちは、環境問題が、その原因においても、またその解決のためにも、科学技術と深 くかかわっており、その意味で、科学的なものの見方や考え方を持たなければならないことを学ぶ。また、子 供たちは、環境問題が、人類が生存し、生産活動を行っていること自体に由来するものであり、資源やエネル ギーの大量消費、それに伴う多量の廃棄など、現代文明や現代の生活様式に深くかかわっていることなど、人 間と環境とのかかわりについて理解を深める。さらに、豊かな自然や快適な環境の価値についての認識を高め、 省資源、省エネルギー、リサイクルを図ることなどによって、社会全体の生活様式や経済活動を環境に配慮し たものに変革し、循環を基調とする環境保全型社会を形成していくことの大切さを学ぶ。 このようなことをしっかりと知ることももちろん重要なことである。しかし、さらに大切なことは、これらを 単に知識として知っているということではなく、こうした理解を踏まえて、自らの日常活動が環境問題と密接 に関連していることの認識を持つとともに、環境の保全やよりよい環境の創造のために、身近なところから、 何らかの行動をしようとする心や実践的態度を育成することである。 第三は、環境教育においては体験的な学習が重視されなければならないということである。このことは、学校 の教室での授業においても留意されるべきことであるが、時には、教室を出て、豊かな自然の中で、あるいは 地域の中で、環境の大切さを実感しながら、環境について実際にどのようなことが問題となっており、その問 題の解決に向け、どのような取組がなされているか、そして、自分たちは何をしなければならないのか等を学 べるような学習活動が大いに行われるべきなのである。 また、こうした活動においては、地域の実態に応じて、社会教育施設等の関係機関や関係団体との連携を図る ことも積極的に行われるべきであろう。さらに、現在、幾つかの中学校において、子供たちが主体となり、環 境観測と世界的な環境データの共有を行うことを目的に、気温、降水量、水温等について観測・調査し、その データをインターネットを通して交換し、国際協力をするという「環境のための地球規模の学習及び観測プロ グラム(GLOBE,計画)」への取組がなされている。環境問題が地球全体の問題であることを考えると、こうし たインターネットなどの情報通信ネットワークを活用して、世界の様々な地域の学校や施設などとの交流を進 めながら、環境教育を行っていくことも有意義なことと考えられる。 また、環境教育が、このように総合的・横断的な特色を持ったものであることを考えると、学校や地域の実態 等に応じ、「総合的な学習の時間」などを活用した特色ある取組も望まれよう。 そして、充実した環境教育を行っていくためには、やはり優れた指導者が不可欠であることを指摘しておかな ければならない。 そのためには、教員養成課程について、教科に関する科目において環境教育に配慮するとともに、様々な体験 的な学習に関する実践的な指導方法を習得させるなど、カリキュラムを充実する必要がある。また、教員研修 において、環境教育に取り組む視点や方法、環境保全活動などの体験活動を取り入れるなど、環境教育に取り 組んでいくに当たって必要となる実践的な内容を充実する必要がある。 また、特別非常勤講師制度などを活用して、環境問題に実際に携わっている自然保護の関係者や研究者等の社 会人を幅広く学校に受け入れることなども積極的に推進されるべきであろう。 [3],地域社会における様々な学習機会の提供 環境教育については、学校だけでなく、地域社会においても、様々な学習機会を提供するなどの取組を進める べきである。 地域社会における環境に関する学習機会の提供の取組を進めるためには、学習活動の場の充実、学習機会の拡 充や情報の提供などについて充実する必要がある。 とりわけ、学習機会の拡充については、自然に親しむことが環境教育の第一歩であり、環境から学ぶとともに、 環境について学ぶといった視点に立って、星空観察、バードウォッチングなどの自然観察やキャンプなどの野 外活動をはじめとして、様々な自然に親しむ機会を設けることが重要である。また、博物館や少年自然の家等 の社会教育施設などにおいて、環境学習教室など多様な学習機会を拡充することが望まれるが、その際には、 特に、体験型の学習機会の充実に留意する必要がある。さらに、子供たちがグループ活動や団体活動を通じて、 地域において楽しく、自主的、継続的に環境について学んだり、環境保全活動を行っていくことも有意義であ り、こうした活動をさらに活性化していくべきである。大学や研究所などにおいても、子供たちを対象にセミ ナーなどを開催し、地球環境問題の現状などを分かりやすく説明していくことを望みたい。企業などにおいて も、子供たちに環境に関する学習機会の提供を期待したい。さらに、現在、国と地方公共団体が共同して、毎 年「環境教育フェア」が開催されている。「環境教育フェア」では、環境教育の成果発表や環境問題について の講演・パネルディスカッションなどが行われているが、教育関係者のみならず、一般の人々からの参加者も 多く、この「環境教育フェア」が社会全体の環境に関する意識啓発に寄与するところは極めて大きいと考えら れる。こうした行事が今後一層充実して実施されることが望まれる。 以上、環境に関する地域での学習機会の例を幾つか挙げてみたが、我々は、様々な地域で、特色を持った環境 に関する学習の機会が子供たちに用意されることを望むものである。そして、第4章,[3]においても指摘した ように、環境に関する学習活動についても、どのような活動がいつ、どこで行われているか等についての様々 な情報を子供たちに提供する仕組みを整備することが必要である。このため、科学に関する学習機会について の情報と同様に、市町村教育委員会が中心となって、地域社会における各種の情報をデータベース化するとと もに、関係機関や民間団体などとの情報通信ネットワークを形成し、子供たちに情報を十分に提供する体制を 整備することの必要性を指摘しておきたい。 なお、環境問題への取組としては、一人一人が身の回りのできることから実践していくということが重要であ る。その意味でも子供たちが学校や地域社会でのそれぞれの役割に即した活動を通して、ボランティア活動を 経験し、将来、環境保全を含めたボランティア活動を自然に行っていく契機となることを望みたい。 また、家庭においても、子供たちに環境を大切にする心をはぐくむとともに、学校や地域社会で学んだことを 日常生活で実践するよう促していくことを期待したい。 今後の検討課題 本審議会においては、「今後における教育の在り方」、「学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方」及び 「国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方」について、以上のような検討を行 い、この第一次答申をとりまとめたところである。 我々は、この第一次答申を、教育改革を推進するための最初の提言と位置付けているが、その実現のためには、 行政のみならず、学校、家庭、地域社会、企業などにおける積極的な取組とともに、国民一人一人の教育改革 に対する理解と協力が不可欠であることを訴えたい。また、こうした教育改革を推進するためには、適切な財 政措置が必要であることを付言しておきたい。 第一次答申後、本審議会は、ゆだねられているもう一つの検討事項である「一人一人の能力・適性に応じた教 育と学校間の接続の改善」についての審議を開始するとともに、「国際化、情報化、科学技術の発展等社会の 変化に対応する教育の在り方」について引き続き審議を行っていくこととしている。 その際には、前者の検討事項に関しては、高等学校教育の改革・大学教育の改革、大学・高等学校における入 学者選抜の改善、いわゆる中高一貫教育の導入や教育上の例外措置などを主に検討することとしており、また、 後者の検討事項に関しては、国際社会で活躍する人材の育成や創造性の涵養などを含めて、社会の変化に対応 する教育の在り方について検討することとしている。 以上の情報は文部科学省にて公表されています。